「決闘!高田馬場」をさらに楽しむ

調子に乗って「高田馬場」のコメンタリメモ書きやってみました。ほいきたどーん!

  • パパパパパパパルコ歌舞伎の曲は染五郎さんたってのご希望で新曲が作られた
  • 染さまと勘太郎くんは客席通路を通って出るのだが、勘太郎くんは出る前「緊張する緊張する」の連呼だったらしい。染さまは扉を開けるとちょうど通路角の関係者席がパッと目に入ってしまうのでそれが気になってしょうがなかった(そういえば宮藤さんもその席だった)
  • 高麗蔵さん、普段は物腰の柔らかな優しい方なのだが、怒るとコワイらしい。
  • 宗之助さんと染五郎さんは同い年。すっごく仲がいい。三谷さん曰く「こいつらデキてんじゃねえか」というぐらいいつも一緒にいたらしい
  • 亀治郎さんは知れば知るほど面白い男。スピリチュアルなものが大好き。染さまはあやうくパワーの出る石というのを売りつけられそうになった。35万で(爆)
  • 亀治郎さんはライオンキングが大好き。本気で四季を受けそうになった。シンバの役がやりたくて、裸にならないといけないから身体を鍛えないと!とまずジムに行ったらしい。どんだけ形から入る男なんだと(笑)
  • 顔の仕方なんかは完全に役者におまかせの歌舞伎スタイルだったようです
  • 中津川のホモちっくなキャラは三谷さん的には「そんなつもりはなかった」染さまは「そういう本だった」と応酬(笑)
  • 「こういうのは歌舞伎にある手法なんですか」「まったくありません」の応酬(笑)
  • 萬次郎さんのお梅さん役も相当膨らんだ。一番ノリノリでらっしゃったとか。勘三郎さんは「萬次郎さんがここに出ることがもうすごい」と言っていた
  • 三谷さんは錦吾さんとは最後まで心開けなかった(笑)怖かったんだって!どこまでこの人は我慢してくれるのか、と気が気じゃなかったんだって!
  • 橘太郎さんも最初はいろいろ戸惑っていたが、だんだんノリノリになってきて千秋楽にはえらいアドリブをかまされた。それに対応できなかった染さまはものすごく悔しかった
  • 女性のいない稽古場なんて初めてだったから*1最初キツかったと三谷さん。だから宗之助さんのおもんさんが本当にだんだん本当に女性に見えてきてちょっとときめいてしまったらしい
  • パルコ、ということで特別な感じはあまりなかった。第1回のコクーン歌舞伎の時はそうとう緊張したけれども、という染さまのお話に三谷さん「やっぱり最初にやるのが肝心なんだよな」と悔しそう。次は水中歌舞伎?氷上歌舞伎?とネタに走る(笑)
  • 亀ちゃん、染さま、勘太郎くんは楽屋でもすっごく仲良かった。亀治郎さんと染五郎さんは極めてマイペース、勘太郎くんは中立的な感じ。わかりすぎる!
  • 台詞を噛んだら1回100円、というNG募金をしていたら、楽日にそれを開けたらえらい金額になっていた(笑)
  • やはりそうとうに「おまかせ」な部分が多かったらしい。安兵衛と又八の長屋でのシーンなんかはほとんどそうなんだって。
  • 楽日の日出演者みんなの似顔絵を三谷さんはプレゼントしたそうです
  • おもんに投げられるところのトンボは実はすごく痛い。痛い、んだけども自分で始めたことなので途中でやめられなかった
  • 稽古場でのアイデアの出し合いはすごかった。皆積極的にこうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないか、とどれだけ引き出しがあるんだ!というぐらい色々アイデアを出してくれていた。中には「その引き出し閉まっておいて」というものもありましたが(笑)
  • 「お客さんはいい意味で入り込んでいない。このお芝居を演じている歌舞伎役者さんを見ている。だから『歌舞伎役者だから成立する』場面が結構あるのだと思う。」とは三谷さんの弁。
  • 舞台稽古をしているときに、亀治郎さんの出番が途中相当ないことに気がついて、それで堀部ほりの役をやってもらうことになった。立役と女形の両方をいっぺんにやっているので、相当喉に負担がかかっていたらしい。喉にいいものはなんでも試していた。でもってほり→右京の顔をしかえる時間がどうしても1分足りない!ということになって、それで義太夫さんの「ただいまの成り行きについてご説明」を入れたそうです(笑)
  • 人形劇のデザインは三谷さん。3人ともあまり本意ではない出来だったそうだ。染さまは「あんなに青くない」亀ちゃんは「こんなに丸くない」、そして勘太郎くんの顔は5秒で描いた顔らしい。ヒドス!
  • 手紙は毎回毎回新たに書き直していた。なんて贅沢な消え物!
  • 自分の芝居は幕が開いたらあまり見ないけど、この作品はこのラスト30分は何度でも見たくなる感じだった、と三谷さん。書き終わった時に思い描く理想通りになることなんてほとんどないけど、これは自分の思った通りのテンポ、思った通りの姿になった。
  • 廻り舞台を皆がぐるぐるまわってミニチュアの障害物を飛び越えるシーン、最初は黒子が出していたんだが、橋之助さんが観に来た日に、夜酔っぱらって三谷さんの家に電話がかかってきて「あれは手下が出した方が面白いんじゃないか」とのアドバイスがあったそうです
  • 使用していたブレヒト幕は、当初用意していた幕が薄かったのか、舞台稽古の日に使ってみたら後ろが透けてしまい、これはいかん!どうしよう!となった。そこで、前月まで使っていた「贋作-罪と罰」のブレヒト幕がSISカンパニーの事務所に残っている、ということで急遽それを借りてきた。つまりこの幕は兄妹で使ったというわけですね
  • 又八が死ぬシーンでいつも染五郎さんの奥様は泣いてしまう、と三谷さんにそっと打ち明けたそうです(笑)その話をされて染さま「うちのことはいいですよ!」
  • 最後の右京の「高田のばばばば、馬場へ」の「ばばば」はさすがにいいシーンだしやめた方がいいんじゃないか、という三谷さんに亀治郎さんは「いや大丈夫、絶対お客さんは食いついてくるから大丈夫です」と言ってやりきったそうです。いやーまんまと食いついた>俺


全体に、聞いて頂ければ何度も話に出てくるのですが、観たときにも感じたことだけれど三谷さんはこの芝居で「おまかせ」しているところが非常に多い。萬次郎さんの役柄の膨らみ方なんかはそれが顕著に現れた例で、もともとおウメはあとから追いかけて高田馬場に行くことになっていなかったそうなのですよ。その他にも、亀治郎さんが立ち合いの様子を語るときの台詞や、義太夫との割り方、音の入れ方、衣装を自分で発注する、というのも歌舞伎の手法にならったとのことで、三谷さんは「自分の脚本にこだわりがない方」と良く言うんだけど、えーそうかあ?と思ってたんだけど、このコメンタリを聞くと確かにそうですね、という感じがした。

しかしまた同時に、インタビューで亀治郎さんが「一から十まで決めていくきっちりした演出をする方」と言っているように、稽古場風景を見ても台詞のトーン、ニュアンス、人物造形についても明確なビジョンがあって、世界を作っているというのがよくわかる。

それと「おまかせ」ってのがじゃなんで両立するのか、っていうと、三谷さんは自分のアイデアよりも面白いものに対してはもうまったくこだわりなく面白い方をとる、というのがあるんだと思うんですね。つまりそれだけ歌舞伎役者の皆さんから出てくるアイデアが豊富で、しかも面白かったってことなんだろうなあと思う。でもってもうひとつこれはコメンタリの中で言っていたことだけども、「どんなに遊んで逸脱しても、この人たちは絶対に芯に戻してくれる」という安心感があるそうだ。なるほどなあ。

野田さんmeets勘三郎さん、というのも素晴らしい出会いなんだけれども、しかしもしかしたら三谷さんのほうが、こういった世界で新しいホンをものすという意味では向いているのかもしれないなあとも思った。野田さんはやはり、演出家野田秀樹としてのカラーが色濃く出てしまうところがある(少なくともこれまでの2作はそう)。もちろん、それが大いなる魅力でもあるわけなんだけども。

最後に、ラストシーンの染五郎さんに対する三谷さんのコメントを書いておく。まったくもってそのとおりだと思うし、それが出来る染さまと、そのポテンシャルを育てる歌舞伎というものの奥深さに敬礼。

「やっぱね、このあとですよ。このあとだってもう、走ってるだけだもん。走ってるだけなのに、これだけ魅せる役者ってのはそうはいないね。」

*1:笑の大学」だって女性キャストいないじゃん、と思ったんだけど二人芝居だから別なんだろうか