「犬は鎖に繋ぐべからず」NYLON100℃

岸田國士の7本の一幕劇「犬は鎖に繋ぐべからず」「隣の花」「驟雨」「屋上庭園」「ここに弟あり」「紙風船」「ぶらんこ」をコラージュし、ひとつの町内で起こっている出来事として再構成したもの。上演時間は休憩10分をはさんで約3時間。

戯曲賞の名前になっているということは当然知っていても読んだことのなかった岸田國士。「たいして何も起きない」とケラさんはじめ口を揃えておっしゃいますが(それでも面白い、という話なんですもちろん)、でもいやーこれ何にも起きてない事ないよっていう。世間で言うところの「ドラマ」の起きる前、何かが起こってしまう前の緊張感が漲っている感じで、かなり集中力を必要とした。ひー。でも心地いい緊張感だったなあ。たとえば人が死ぬとか浮気するとか殴りあうとか、そういうものばかりが「物事」じゃないんだねっていう。

いちばんナイロンぽいというか、ちょっとスラップスティックな「犬〜」を全体の枠組みにしてたという印象。この話自体よりも、その中で描かれた話のほうが断然印象に残った。とはいえ、最後の構成は見事ですね。あれは「紙風船」の台詞なのかな。妻が夫に「私を甘やかせすぎるのよ」というのを、劇中で描かれたほぼすべての妻が同時に口にするところとか鳥肌立つほどよかった。

ここに弟ありの廣川さんが、最初の波を作ったなーと思ったなあ。あのあたりから一気に世界にのめりこんでいけた感じ。隣の花もよかった。あの思わせぶりな会話と会話。そして緒川たまきの美しさよ!私舞台で綺麗といわれているどんな女優さん見ても、芝居に感動することはあってもその美しさに感動するなんてことはまずないが(だって席離れたら顔なんてわからんやん)、緒川たまきには感動した。美しすぎる。あの人立ってるだけでいい、そういう感じ。もちろん立ってるだけじゃなくてすごくナイロンに溶け込んでらっしゃったのだが。

個人的に最大のヒットは「屋上庭園」。もう・・・・じゅねちゃん!*1(抱きつき)私、花組芝居は数本しか見ていないので、植本さんは客演で拝見することのほうが多いんですけど、その中でも1,2を争う素晴らしさだった。うおううおう。あの神経質そうなたたずまい、声。世を拗ねた物言い。すべてが私のツボに超弩級のストライク。作品としてもあれだけ短い話なのに完全に確立された世界があって、ほかの作品とクロスオーバーさせ辛かったんじゃないかと思います。具体的な何かは語られないが、かつてはそのシニカルな姿勢とおそらくは文才で友人たちの尊敬とある種嫉妬を集めていたであろう男が、富める者と貧しき者となってかつての仲間に再会する。その時の精一杯の矜持。植本さん見事な好演でした。

女性陣の着物姿も楽しかったですし、役者さんも皆、岸田國士のきれいな言葉を(苦労したとは仰りつつも)ちゃんと自分のものにしていて素晴らしかった。

あと、芝居には関係ないんですけど、今回私Cブロックの端っこで、最後カーテンコールのとき客演の皆様が中央の舞台でお辞儀するじゃないですか。あれで植本さんがちょうど私の真横だったんですよ。で、真横だから、しかも舞台が高いから、普通の舞台では絶対に見られない、頭を下げた後の顔を下から見ることができるのね。
ごめん、もう、ガン見。
こういっちゃなんですけど、隣の人と笑いながらパッと頭を下げて、でも下げた後の顔ももちろん笑ってて、あああもうかわいいのかわいくないのってかわいいんだよ!!鼻血ものだった・・・いい夢みれそう。

*1:植本潤さんのことをこう呼ぶのは関西の方が多いですよね、と以前言われてなんでなのかなと思ったらたぶん古田さんがそう呼ぶからではないだろうか