「キャバレー」

  • 青山劇場 L列18番
  • 日本語台本・演出 松尾スズキ

最初に見たものを親と思う、じゃないけれど、やっぱりファーストインプレッションっていうのはなんだかんだと結構大きい。私はサム・メンデス版の「キャバレー」のしかも来日公演を見ただけなんですけど(ライザ・ミネリのキャバレーはその後で見た)、やっぱりかなり鮮烈に残ってるし、それと比較して見ちゃうところはありました。

とはいえ最後の演出がすごく好きなので、あっ見た甲斐あったなー、そうかこういうキャバレーもありか、と思って劇場を後に出来たので個人的には満足です。まあでもあまり値段のことは考えないたちだけどそれでも1万2千円はちょっとお高いかなあ!とは思う。

サダヲちゃんのMC、あーそういう感じで来るのかと。これどうしてもアラン・カミング風のを期待してしまっていたところもあったので・・・でもさすがに面白いし、緩急自在だし、さっすがだよなあ!と見ながら感服してしまったんだけど。でも、こういうサダヲちゃんも見たい感じしませんか?

youtube万歳。これに限らずミュージカル系のお宝映像がつべには転がっているので油断ならない。トニー賞のときのパフォーマンスのもあったんですけど、これがいちばん画像がキレイだったので。

このミュージカルのなかでいちばん好きなのは、やっぱり最後にサリーの歌う「キャバレー」なんだけど、ここはちょっと惜しいなあという感じ。サム・メンデス版にあるここでしか生きられないという怒りや哀しさ、ライザ・ミネリのような一抹の切なさと覚悟、そういう突出したなにかではなくてただの「やけっぱち」みたいな感じが強く出てしまっているかなあと思う。

とはいえここにあまりクライマックスをもってくることを潔しとしていないのかな、松尾さんは、とも思ったり。ここで客が気持ちよくなりすぎちゃうのはちょっと待てよ、というプランのようにも思えます。

最後のMCの歌に合わせて、それぞれの登場人物がそれぞれの「現実」を歌いながら浮かび上がり、その中でひとり自分の現実に帰っていこうとするクリフが舞台を降りてふと振り返る。浮かび上がる人たちも、振り返るクリフも、みなそれぞれに幸せそうじゃない顔をしている。

舞台の途中で秋山菜津子さん演じるシュナイダー夫人が、この壁がベニヤでも関係ないの、ここを出たら間抜けな制服を着た係員みたいな人がいて、トイレはこちらですなんて案内してても、私は見ないから関係ない、という台詞を言って、それはそこでは爆笑を誘うわけですけど、ひとときのベルリンという「キャバレー」をあとにするクリフと、その舞台を見たあとで劇場を背にする私たち、というのが実はシンクロしているのかもしれないなあ、とその構図を見てふと考えてしまいました。

最初に戦火から逃げまどう青年が手にしたギターの弦が、最後には切れてしまって暗転、という終幕も、個人的にはすごく好みです。

サダヲちゃんのMCの可愛さは必見だし、やはり秋山菜津子さんのずば抜けっぷりったらない、という感じ。笑いという点ではほぼ、この二人の双肩にかかっていたといっても過言ではないのでは。松雪さん、歌もダンスもなかなかで、この美しさでこの器用さ、得難いとは思うけども「器用」という印象に留まってしまうかなあ。森山未來くんはもっと踊らせたかった!という誰しもが思うことも思いつつ、でもへなちょこ男な感じが良く出ていたかなと。小松さんも的確な仕事を果たしているなあといった印象。

最初セットの構図が「キレイ」をあまりに彷彿とさせましたが、始まってしまったらあまり気にならなかったな。最後のカーテンコールでの松尾さんへのひときわ大きい拍手が、愛されてるなあ!という感じがしてしみじみ。