「IZO」新感線

森田剛さん主演ということもさりながら、新感線+青木豪という組み合わせに興味津々だったわけなんですけども、今までの新感線とははっきりとカラーの違う作品に仕上がっていて、新しい試みに挑戦した甲斐のある出来になっていたのではないかと思いました。

以下ねたばれを含みます。

映画のような作品を目指した部分があるということだったんですけど、確かにいのうえ歌舞伎のケレンたっぷりな見せ場や派手な殺陣、そういう場面は皆無といってよかったですし、だからこそ新感線の「いのうえ歌舞伎」が好き!というひとには食い足りない部分もあったかもなあ、という気はしました。

たとえばクライマックスで、もしこれが中島かずきさんなら、最後は敗れるにせよ勝つにせよ、武市と以蔵を戦わせただろうと思うんですよね。でもそれをしないのが青木さんらしさだし、それはしなくても成立する作品に仕上げたというところが新しい新感線だなあと思いました。

以蔵を愚かだったとは私は思わないし、もし彼が愚かなら、私も等しく愚かな人間だろうなと思う。たったひとつのことを信じること、それは愚かな行為だろうか?自分は周りを見ている気になって、自分は賢い気になって、でも結局「自分だけの天」から逃れられずにいたひとたちと、以蔵とはどこが違うのか?彼の悲劇はたったひとつのことを信じたことではなくて、それが「人を殺すこと」だったこと、それこそが彼の切なさなんだろうと思います。

個人的にとてもいいなと思ったところ。この劇中には3度「しばしの猶予」を乞う場面がありますが、1度目のそれはまったく聞き入れられずに、安五郎は死んでしまう。2度目は逆に以蔵が「乞われる」立場になるわけですが、彼は相手の目を潰すという形で、やはりそれは聞き届けられない。しかし最後、彼が願う「もう少しこの花を眺めていてもいいか」という願いだけは聞き届けられる。それはこの劇中におけるたったひとつの慈悲のようでもあって、私にはとてもぐっとくるシーンでした。

立体的なセットを次から次へと組んでいくのもさすが新感線のスタッフワーク、という感じで見事。とはいえ、そのためにスクリーンを使用した「繋ぎ」が多くなってしまうという部分もあるので、痛し痒しかなあ。花道があったら、花道で芝居を展開させている間に、とかもできるんでしょうけどね。あと、あの高圧ガスを使った血糊の噴出しはほどほどにしたほうが良いのでは・・・(笑)きれいに決まればいいけど、どうしても間を待って殺陣のスピードが死ぬし、失敗したとき「あ、失敗」ってわかるところが切ないから(笑)

というわけで作品的にはかなり満足しましたが、キャストとしてはですね、まず全体的にもうひとり、舞台で責任をとってくれるひとを配してほしかったなという気はしました。みんな一生懸命で・・・一生懸命なんだよね。こっちから芝居を拾いにいかなきゃいけない、という場面がけっこうあった。

そういう意味では、竜馬をやった池田鉄洋さんは見事というほかなく、もちろん役柄としてもいいというのはありますが、あの緩急自在さ、キメどころとのギャップのつけ方、文句なしにかっこよかったです。あと、押し芸中心のキャストの中にあって木場さんの引き芸が際立っていたなあと。あの二人の場面は安心して見れたなあ。

田辺さんは、一見「え?これが田辺さん?」という感じの、どちらかというと野太い役柄をきちんと作り上げてましたねえ。戸田さん、初舞台ということですがいや全然、普通によかったです。森田さんはねえ、うーん、まあ声がね。もうかなりやってしまっていたので、それにかなり気を取られた、正直。ここらあたりで底を打ったらまた浮上してくる気もするので、そのあたりは今後の奮闘に期待したい。個人的に、この人は「泣かせてみたくなる色気」のある人だなあと思っていたので、そういう意味ではずっぱまりのキャスティングだったなあと思います。もうちょっと静かなトーンで押す場面が増えてもいいのかな、今後の喉の保護の為にも(笑)

大阪でもう一度拝見する予定なので、これからの進化にも期待しつつ。