「我が魂は輝く水なり」

萬斎さんと菊之助さんの組み合わせに惹かれて、とはいえ発売後かなり経ってから別の用事でコクーンに行ったときにダメもとで「チケット残ってますか」と聞いたら日曜マチネの2階天井席が1枚だけ残っていたのでした。ということで、劇場のまさに最後列からの観劇。これはこれで捨てがたいと言うか、舞台の奥行きもよく見えるし、俯瞰の位置で見るとまた違う感情が喚起されたりして楽しいものです。

とはいえ、これは個人的なコンディションもあるのですが、金曜日の夜からソワレマチネソワレマチネと4本連続で芝居を入れていたので、さすがに集中力も息切れの感(笑)があり、席も席だったので、最初は舞台に乗っていくのに時間を要したなあという感じ。

とはいえ、二階席にいてもまったく問題なくほとんどの役者さんの台詞がかっちり聞き取れるのはすばらしい。中でも、六郎役の亀三郎さんはその役の激情にのまれることなく台詞を届けていらっしゃって見事だったなあと。意外なことにというか、実盛と五郎、権頭のやりとりなどに心和む場面も多く、二幕では長谷川さん演じる惟盛の「ええしのボン」ぶりに笑わされました。

物語としては断然2幕の方に魅力があって、六郎に「あなたの語る森の一族はもうあなたの心の中にしかない」と言い放たれてしまうところ、巴と実盛の会話、そして老人実盛ではなく「眩しい若者」のひとりとして散っていくことを望む実盛の姿はとても心に残りました。

萬斎さんも菊之助くんも、ほんとに動きが美しくて、なんと絵になる二人であることかとため息が出ることもしばしば。戦闘シーンでの萬斎さんの、刀を合わせると途端に機敏に美しくなる(なってしまう)足捌きに見惚れつつ、菊ちゃんの儚さにうっとりしつつ。そしてこういう役をやらせて、今この人の右に出る人はいないのではないかと思わせる秋山菜津子さんの女丈夫ぶりは見事。一幕の短い場面だけで、巴としての妖艶さを印象づけ、二幕ではその抑えた色香を存分に発揮しておられました。ふぶき役の女優さん、声も顔も西尾まりさんにそっくりで、実際パンフかった今でも「あれは西尾さんだったのではないか」と思ってしまうんですが違うんですね(笑)ふぶきの役が狂気というよりヒステリックに見えてしまったあたりは残念。

カーテンコールで舞台奥から走ってくる萬斎さんと菊ちゃん、そして秋山姐さんのセンター3人に「見甲斐のあるスリーショットだなあ」と惚れ惚れいたしました。