「神様とその他の変種」ナイロン100℃

ナイロン100℃、33rd session。
いやーこれは、あまり予備知識入れずに見てほしいなあと思います。入れて観てももちろん充分に楽しめるとは思いますが、入れないで観て、どういう風に思うのかってところも楽しんでもらいたい、的な。なので千秋楽が終わるまで感想書くのやめておこうかと思ったんですけど、そうしたらたぶん自分が自分の感想を忘れるので今書いておきます。だって公演終わるの5月の末だもん。
なんというんですかね、ケラさんに限らず作家にはそれぞれ作品の傾向というものがあるじゃないですか。それは1種類じゃなくて、たいていの場合「こういうタイプ」と分別されるような。極端な例で言うなら新感線のいのうえ歌舞伎とおポンチとかね。野田さんの番外公演と本公演とかね。で、ケラさんだったらシュール&ナンセンスなものもあれば、「消失」「カラメリ」のようなドラマ性の強いものもあるといった具合に。私個人の経験で行くとナイロンを最初に見たのは「下北ビートニクス」だったんですよ。次が「ビフテキと暴走」だったんですよ。それで次が「カラフルメリィでオハヨ」だったんですよ。全然違う。最近の例でいくなら、「犯さん哉」と「あれから」ぐらい違う。

でも今回、ケラさんはですね、最近ケラさんのなかで主流となっている(そして大きく評価されている)(と思う)「芝居らしい芝居」のなかに、その「ビフテキと暴走」的なものをぶちこんでいるわけですよ。なんなら、「犬は鎖につなぐべからず」のコラージュ的な手法もぶちこんでいるわけですよ。ものすごい細密な物語を土台にして、そうして観客を引っ張っておいて、「物語?なにそれ?」的なうっちゃりをかましているわけですよ。そしてなによりもうなるのが、それらがもう、実はものすごく繊細に組み立てられているということなんですよ。なんという勇気かと。なんか、誰かが死にそうだの病気だの泣いちゃいましたあ!だの、とりあえず「ええ話げ」な、いい話じゃないのよ、「いい話風」なね、そういうものであー物語物語、そういうことを言ってるやつらにはこんなことは決してできまいと思うわけですよ。

しかしいちいち、そのパーツパーツの精度には驚かざるを得ないというか、そしてまたそれを実現する役者陣にも拍手を送りたいというか。なかでも犬山イヌコさんと山崎一さんはすごかったな。やっぱり犬山さんはケラ作品のミューズだねとおもう。「わが闇」の犬山さんの役をやれる人はいても、この「神様とその他の変種」の犬山さんの役をやりきれるひとは多分そういまい。山崎さんも見事だったなあ。あのシーンの吸引力ったら!息を呑んでしまったよ思わず。あと、ケラ演出は「噂の男」以来なのかな、ナイロンには客演初めてですよね?山内圭哉さんも、しっかりケラさんのテイストを体現しているんだけど、なおかつどこか違う風を送り込んでいてすばらしかった。そしてリエさん!いやあもう大好きですよ。あの佇まい。あの声。みのすけさんと大倉くんはご自身の得意技を繰り出しつつ、やはり見事な安定感。

そうそう、セットもよかった。冒頭、家の壁の窓だけを開けた状態で1シーンやりきるんだけど、その「覗き見感」もいいし、柱の陰になってリエさんの顔だけに影が落ちるとか、それだけである種劇的効果があったと思いました。そして相変わらず、オープニングのかっこよさはしびれがくるレベル。もうこの点においては他のどんな劇団もナイロンに10馬身ぐらい差をあけられていると思うね。

ナイロン100℃、33rd session。33回公演にして、この貪欲さ。33回公演だからこその、この精度。
脱帽です。