「十二月大歌舞伎 夜の部」

  • 引窓

いやーよかったですこれ。初めて拝見した演目ですが、3人それぞれのドラマががっつり胸に沁みました。あの引窓をうまく使う筋立てもすごい。えっそんなんありえんやろ、という展開もないわけではないですが、そこを感じさせない役者の力というか。三津五郎さん素晴らしかったなあ。あの町人の自分と武士の自分を切り替えてみせるところとか絶品でした。

  • 雪傾城

芝翫さんと6人のお孫さんたちによる舞踊。華やか、かつ可愛らしい一幕でした。芝翫さんが登場したときに会場内の圧というのか、熱がガっとあがる感じがいい。そしてここでも勘太郎くんガン見の俺でした。だって・・・好きなんだもん(はいはい)。しかしその舞台上で勘太郎くんが自分の従兄弟たちの踊りを兄とも父ともとれるような顔で見つめていたのがとても印象的でした。

  • 野田版 鼠小僧

初演は八月納涼歌舞伎での上演でしたが、今回は十二月、作品と季節がぴったりと合いましたね。初演の時にすでに衝撃的だった七之助くんと扇雀さん母子、相変わらず見事としか言いようのないはじけっぷり。三津五郎さんも軽妙洒脱に徹するのかと思いきや、あのお白州での仕切り、そして清吉への「お前は実直な目明かしだな」「この赤い足跡をゆるゆるとたどれば、いずれ鼠の死骸に行き当たる」というあたり、有無を言わせぬ威厳を感じさせてさすがでした。
しかしそのお白州で三津五郎さんと対峙する勘三郎さん、なんというか・・・声の調子としては絶好調ではなかったと思うんですが、あのさん太のことに触れられて「いかにも俺は鼠小僧だ」と居直るあたりの感情の伝わり方っていうのはそのへんの役者では太刀打ちできないものがある。
前日に悲しい知らせを耳にしたばかりだったということもあってか、あの屋根の上での三太の独白、忘れちゃいけないのは、いつも誰かが屋根の上から見ていてくれてる、そう思う心だ、って台詞が胸に詰まった。美しい舞台、師走の静かな寂しさがよく似合う舞台でした。師走の歌舞伎座でこの舞台が見られたことに感謝。