バイオリニストは目が赤い

バイオリニストは目が赤い (新潮文庫)

バイオリニストは目が赤い (新潮文庫)

id:kogameさんが紹介されてるのを見て面白そうだなーと思って購入。
クラシックをまったく嗜まない(家族の中にピアノ弾きがいるにもかかわらず)私ですが、すーーごく面白かったです。筆者はN響に長く在籍されていた方なので、数々の指揮者のエピソードがざっくざく出てきます。オケから見た良い指揮者悪い指揮者の話とかニヤニヤしながら読んでしまったい。
あと思ったのは、語弊はあるかもしれないけど、言ってみればわりと「憧れ」の職のひとつであるような、N響の第一バイオリンを32年間つとめたというようなひとでもね、当たり前だけど「あーもうカイシャ*1行きたくないなあ」とか思うし、なんとか有給を奪取しようと悪戦苦闘したりするんだなあってことで、でも「仕事」ってのはそういうものだよねーと思うのだ。
最後にマイ・フェイバリットとしておすすめの演奏家、おすすめの楽曲に対し「この録音がいい!」とレコメンドしてくださってる。クラシック聴かない私でも聴いてみたくなるほど魅力的な書きっぷりです。
たくさん印象的なエピソードがあるが、その中からひとつ。

私めの心を、もっともとらえたマエストロはロブロ・フォン・マタチッチであった。指揮は下手、超女好き、恐妻家、アル中、金銭感覚ゼロと、いいことナシなようなのに。彼は若いころ、将校であった。ユーゴの内乱で大暴れしたまではよかったが、逆に捕らえられ、銃殺刑と決まった。仲間が次々と倒れていく。彼の番号は17番。15番まで殺したとき、殺す側のボスは言った。「疲れた。あとはあしたにしよう。誰かピアノを弾ける者はいないか」「私が弾きます」とマタちゃん。その演奏を聴いてボスは「彼のような芸術家を殺すのは恥だ」と上司に助命を願い出た。その上司の娘が彼に恋して、九死に一生を得た彼の妻となったのであった。めでたし、めでたし。

*1:と筆者が書いていらっしゃる