「農業少女」

初演は2000年の私の年間ベストでした。
って書き出すとなんか「だから今回の再演微妙」みたいな話に流れそうだけど、いやーなんか、全然違ったな。話の力点が全然違う感じ。松尾さんがいうところの「全体主義への警鐘」みたいなものは、正直初演を見た印象の中に今はまったく残っていないのだが、今回は都罪のあの長台詞やヤマモトの(ボイスチェンジャーを使った)都罪への言葉がずがっ!と乗っかってきたなあと思う。
初演はやっぱり、深津絵里の物語だったなあと思うのだ。それは役者がどうってことじゃなくて、野田さんがそう作ってた気がする。今回は力点がうまくばらけて、ばらけたゆえに都罪やヤマモトの姿が立ち上がってきてる。もちろん吹越さんや山崎さんのうまさもあるのだろうけど。このお二人、もう、ほんと、舌を巻くうまさ。都罪のあの演説での演出は松尾さんアイデアだそうですが、やーすごいなあと改めて。自分がやっていた役を完全に客観視してるのだなあ。
多部未華子さん、正直まったく期待していなかったのだが、第一声で「あ、いける」という手応えがあった。ほんと芝居は第一声で9割決まると言っても過言ではないよね。ファム・ファタール的な面が強かった初演の百子よりも振り回し、同時に振り回される哀しさがあって、だからこそラストのあの演出は鳥肌ものだった。
本当にびっくりするぐらい初演とは手触りの違う作品に仕上がっていて、初演ではある意味涙で浄化させてくれてたものを、がっつり喉元に押し込んではき出させないまま、ってあたりは松尾スズキならではだなあと。そういう点でも楽しめた公演でした。