「富士見町アパートメント Aプロ」自転車キンクリートSTORE

一つのセットを使って4人の作家が描く物語を一人の演出家が立ち上げる、1時間×4本の短編演劇。残念ながら4本中2本しか拝見できなかったのですが、常日頃から「皆もっとオムニバス演劇をやればよい」と勝手に提唱している私なのでこういう企画はとてもうれしい。もっとやってください(笑)
以下ネタバレ注意。

  • 「魔女たちの夜」作・蓬莱竜太

明星真由美さんと山口紗弥加さんのキャスト。二人の会話のみで進行する、がっつりダイアローグを堪能できる芝居でした。かなりサスペンスフルなんですが、こういう芝居の裕美さんの演出ってわりとオーソドックスっていうか、ベタなところがあるよなあとも思いつつ。
しかし、この二人の女性の、とくに明星さんが演じたマネージャーの女性の心理、自分には何もない、生き地獄だというところって男性にはどういう風に映るのかなあなどと思ってみた。何もない、ように見えるのかな、あの人のこと。タレントの女性の方はまだ、虚像だけが愛されて実存を手に入れられない、というあたりは胸に落ちる部分があっても、マネージャーの方はどうだろう。というのも、私自身も「まあそういう気持ちわからんでもない」と想いながらも、彼女の慟哭に完全に気持ちがついていくかといえば、そうでもなかった部分があるので。
しかし、何の気なしに放った一言がすべてを瓦解させる、というのは本当にとてもよくわかるし、それを淡々と演じつつ、物語の主導権を最後にはがっつり持っていく明星さんの仕事ぶりはさすがでした。マネージャー、という役に、思うところはあったのかなあなんてことも見ながら思ったりしたのだけど。
山口さんも悪くはないのだが、芝居のベクトルが二方向しかないように見えてそれはちょっと惜しいかなと思った。あの最初の携帯電話の着信を待ってるときの顔とか、もっともっと邪悪でもいいのになあと見終わったあと振り返ってみたり。

曲者ばかりが揃ったなあ、という最初の印象はやはり裏切られず。1時間とは思えない濃厚ぶり、よかったです。まず舞台セットの変貌ぶりからしてすごい。自ら命を絶った男を巡って、孤独と向き合う男たち。そういえばAプロの2本は、どちらも孤独というものが抜きがたく存在している脚本になってますよね。
赤堀さんの脚本だなあ、と思わせる役柄を清水宏さんがきっちり背負っていて、その清水さんと組んでいる入江さんはその存在を受け止め、または際立たせていてさすがでした。っていうかあの・・・こたつのさ、あのシーンさ、もう見ながらヤバイ!って感じだったもの。しみひろ切ない爆弾来る!みたいな。なんかホント、ああいうのやらせると異様な切なさが溢れるんですけどなんなんでしょうかね、清水宏という男は。
流しっぱなしのAV見ながらテレビの前でうずくまる井之上さん、台詞はないけど痛いほど感情が伝わってくる芝居だったなあと思う。そしてピンポイントでの出演ながら後半、一気に芝居のカラーを変えてしまう引力の久保酎吉さん、あの夢のシーンすごかったな。でもって、冒頭の「人生は驚くほど平凡だ」って台詞もよかったっす。
最後のね、あの歌がなんとも切なく胸に応えるあたりも、男の精一杯の矜持ゆえのいとおしさ、みたいなもので胸がいっぱいになりました。