「さらば八月のうた」M.O.P

とうとうこの日が来てしまいました。劇団MOP解散公演、大千秋楽。

ひとつの「うた」を巡る謎を中心にした物語。ある意味オムニバスのようでもあり、大河ドラマのようでもあり。こんな言い方はおかしいかもしれませんが、とても解散公演に相応しい戯曲になっていたと思います。MOPのメンバーそれぞれがこの長い歴史の中で培ってきたキャラクターを余すところなくみせてくれて、そうそう、こういう役やらせたらこの人は天下一品なんだよ!と膝を打つ思いの連続でした。勝平さんのべらんめえの関西弁、林英世さんの涼やかなご婦人(と、その対極のおばちゃん・笑)、酒井さんの粋な風格、木下さんの三下感満載の佇まい、穏やかだけれどどこかクールな奥田さん、チンピラ学生からモテモテ作曲家、風格たっぷりのプロデューサー、方やええ声爆弾ここぞとばかりに炸裂させまくりの構成作家に純朴学生、冗談は髪型だけのジャズマンまで、この二人がいれば敵なしの三上&小市コンビ、そしていつもこの劇団の華であり、最後まで花で在り続けたドリさん。

いろんなキャラクターが入れ替わり立ち替わり現れても、物語が過去と未来を激しく行き来しても、一編のうたを巡るその謎がきちんと背骨としてあって、そこに手練れの役者たちがきちんきちんと仕事をしていく、なんていうか、劇団公演の見本のような芝居だったなあと思います。

それにしても小市さんにラジオの構成作家とか、本気で私を殺しにかかってるのかと思いましたよあたしゃ。冒頭3分で死亡遊戯。あんな声がラジオから流れてきた日にゃわたしゃもうラジオと結婚するよ(落ち着いてー)。どんだけええ声なん。どんだけええ声なん。ホンマにどんだけええ声やったら気が済むんやーーー!ぜえぜえ。あとあの寒川丸での学生時代の回想シーン、小市さんのかわゆさもツボだけどあの三上さんの氣志團…の、團長ですか…?みたいな、晒し巻いて長ランっていう、ああああ私もう三上艦長のこういう役大好きなんですわー!ぶっきらぼうでべらんめえだけど誰より強い!みたいなね。みたいなね。

それぞれのエピソードも繋がりつつワンシュチュエーションで完結させている部分もあったりして、林さんとドリさんのキャットファイトとか、よかったなあ。勝平さんと三上さんの出会いのシーンとか、奥田さんと三上さんとドリさんの船上でのドタバタとか。でもってラストシーンでの三上さんと小市さんのハイタッチは私へのご褒美(なんの)だと思ってますが何か。

しかしそんな中でも、ドリさん演じる女漫才師が、内地に引き上げる傷病船の中で、自分の名前を船と共に沈む立候補者の中に入れてくれと少尉に訴えるシーンはすごかった。ドリさんはほとんど泣いているようにも見えたけれど、ただ台詞はまったく滲まず、圧倒的な熱量であの空間を飲み込んでいた。

物語が進むに従って、この「別れと出会い」を描いた物語の、「ひとの縁」を描いた物語のそのひとつひとつが、今日ここにこうして幕を閉じる劇団の状況と圧倒的にシンクロして聞こえて、物語の中心に据えられた「わかれのうた」の歌詞も、今の私たちの、そして舞台の上の彼らの心情そのもののように聞こえて、涙をこらえることはとても難しくなってしまった。

ラジオ番組に寄せられた一通のメールから始まる物語は、そのラジオの最終回(26年間続いた番組ということになっている)で幕を閉じる。そこに現れるのは、彼女が喧嘩別れしてしまった友人の息子、自分が名付け親になったその子だ。彼は言う、ぼくの母は、26年間、1度も欠かさず、あなたの番組を聴いていました。あなたの番組に励まされ、元気をもらっていたんだとおもいます。舞台のうえで日替わりのゲストが演じるその役が言うこの台詞は、まさに観客の皆の心情でもあって、それを聞いていよいよ泣いてしまうDJのように、私も、まわりの観客も、皆同じ心境だっただろうとおもう。

最後は恒例の、「本編とはなんの関係もない」演奏がはじまるのだが、背景の明かりの中、ひとり、またひとりと楽器を持ってステージに立っていく役者たち、その光景のなかで、万感の思いを湛えた三上さんの顔を見た瞬間に私の涙腺は大決壊してしまって、あとはもうみっともなくえぐえぐと泣き続けることしかできなかったです。

演奏が終わった瞬間に、観客が一斉に沸騰するように立ち上がり、音にすれば「感謝」と聞こえてきそうな万感の思いをこめた長い長い、いつまでも続く拍手を送っていた。勝平さんや林さんの涙や、こころなしか震えているようにも聞こえたマキノさんのあいさつ、ニコニコと手を振っていた木下さんが突然堰を切ったように涙し、顔を上げることができなかった、京都で最後を迎えられて幸せでしたというマキノさんのことばに、ドリさんの顔がみるみるうちにゆがんで涙がこぼれ、そういう風景を見てまたこちらも涙するという、もう泣きすぎて痛いよ頭が。

何度目かのカーテンコールで、マキノさんはさいごにじゃあ「わかれのうた」歌おうか、と言って、みんなに「もう覚えてるでしょ?」と聞いた。アカペラで、いっせーのーで、で歌い始めた「わかれのうた」。いま時は満ち、いざさらば。歌い終わると、三上さんが自分の両隣にいたマキノさんと小市さんの手を掴んで高く掲げ、すばらしい笑顔でわたしたちに手を振ってくれた。ああ、終わってしまう。終わってしまった。

こんな風にもう、皆が揃って、ひとつのものを作り上げていく、ということは本当に二度とない。それぞれとはいろんなところで再会できても、このメンバーに、この空気に再会することはもうできないのだ。やっぱり寂しいし、残念です。私はもう何度も言っているけど、三上さんと小市さんが、時にはライバル、時には敵、時には最強の味方として、この舞台のうえで相対峙しているのを見るのが、ほんっとに好きでした。個性もキャラクターも違うからこそ、完全に互角、という空気があった。その中で咲くドリさんの華も、酒井さんや木下さんや奥田さんの軽妙洒脱さも、勝平さんや林さんの達者さも、いつまでも、できることならいつまでも見ていたかったです。でもしょうがない。この世界に変わらないでいるものなんかない。やっぱり最後には感謝の言葉しか出てこないもんですね。本当にありがとう。おつかれさまでした。ありがとう、ありがとう、ありがとう。
大好きでした。
きっとこれから先も、ずっと大好きです。