「愛するには短すぎる」/「ル・ポァゾン 愛の媚薬II」宝塚歌劇星組公演

  • 中日劇場 2階8列11番
  • 原案 小林公平  脚本・演出 正塚晴彦(ミュージカル)
  • 作・演出 岡田敬ニ(レビュー)

わたくし生まれが神戸だったということと、母の友人にヅカ好きがいたということもあって、幼少のみぎり一度宝塚を見に行ったことはあるそうなんですが、あるそう、というか自分でも記憶はあるんですが、舞台の記憶なんてほとんど残っちゃいねえっていうね。ちなみにその時の演目はベルばらでした。

つまり物心ついてからは初めて!自分でチケット代を払っていくのは初めて!の宝塚です。お友達が遠征してくるというのでまんまと便乗させて頂いてしまったのですオホホ。

お友達がおすすめしてくれただけあって、この「愛するには短すぎる」というミュージカル、100分近い上演時間の中でとてもまとまっているというか、よくできてんなーと素直に思いました。財閥令嬢との婚約を発表したばかりの青年が、留学先のロンドンからアメリカに向かう4日間の船旅の中での出来事を描いてるんだけど、この4日というリミットの切り方で一本だなあと。

かつて幼い約束を交わした恋人同士が、偶然その船旅の中で知り合い、お互いが「求めても与えられなかったもの」をお互いの中に見つけて急速に惹かれあう、という筋書きも無理がないし、船の中で起こる宝石泥棒事件を横糸でからめてくるのもうまい。まあこの泥棒事件の方は(最後は恋人たちの別れに物語が集中するあまり)最後は一体なんだったのか…的なところもなきにしもあらずでしたが、それはまあご愛敬の範囲じゃないでしょうか。

主人公の友人を介したコミカルなやりとりも面白かったし、その友人との間に絵に描いたような男の友情、的なものも咲き乱れていて、いやあ乙女の欲望を全方位で絡め取ってくるなあと感服いたしました。

ヒロインを演じた夢咲ねねさん、台詞を喋っているときの口跡もいいし、私の好きな声でよかったなー。こういう色恋沙汰というやつにまったく食指が動かない私をして「この船を下りたら元に戻ろうよ」と告げるシーンの切なさはきゅんきゅんきたぜ。主人公が星組トップの柚希礼音さん、その友人アンソニーを演じたのが2番手の凰稀かなめさん。ほんと2人とも出てきた瞬間に色が変わるというか、華やかオーラありまくりだったな〜。柚希さんがパーティに全身これ金色!みたいな衣装で出てきたときとかもう、揺れたよね、観客が(笑)ラストシーンでは真っ白なコートを羽織ってソフト帽を目深にかぶる、というシーンがあるんだけど、帽子のつばをつーっとなでる仕草とか、もういちいち決まりすぎで、そんなやつはおらん!と思いながらもいやもうこれいるとかいないとかじゃねえんだよ!と納得させられてしまうところが宝塚の威力!と感服いたしました。

さて、2部がレビューということで、いわゆるレビューなんてものを拝見するのも初めてですからいったいどんなものなのか…!とどきどきでしたが、これもまた全方位で楽しませて頂きました(笑)盛大なツッコミどころあり、派手な演出あり、萌えどころありの燃えどころあり。

柚希さんがダンスの名手ということで、どんな場面でもパッと華やかに踊って下さる芯がいるというのはいいもんだなーと思いつつ見ていたのですが、途中男役総出演!ぐらいな群舞であのー何て言ったらいいんだろうな、このCMで最初にやってる動きあるじゃないですか、あれが始まったときには一瞬目が点になりました。しかもそれがどんどん早くなっていくっていうね…!アダムとイブの棒読み英語のやりとりも、今のところを英語にした意味は!?みたいな(笑)白馬つって歌ってるのに白鳥が出てくるあたりもさすがです(笑)


レビューのなかでマタドールとマタドールの影が踊るシーンがあるんですけど、個人的にはここが一番ツボでした!あとでお友達にパンフを見せてもらったら謝さんの振付らしいです。もともと鏡をやるシークエンスとか好きだもんなー私。あとあの日本人には到底似合わない!と思われるマタドールスタイルを華麗に着こなしてらっしゃった柚希さんと凰稀さん、どんなスタイルしてんだと。

「薔薇とサムライ」で天海さんが舞踏会の衣装脱ぎ捨ててブラウス1枚でフラメンコを踊るシーンがありましたが、あの「ハッ!」の決まりすぎた感じ、あれは宝塚の伝統芸なのだな…かっこいいはずだよ…と改めて思ったり。

最後はやっぱりコレを見ないと、な大階段と文字通り羽根背負って出てくるスターさんたち、その羽根の激しいインフレ化に度肝を抜かれつつも、最後はカーテンコール一切なしという潔さで終演するあたりも、これはやっぱりひとつの伝統芸なんだなあと思いました。

しかし、あの開場に渦巻く客席のパワーはすごい!宝塚の集客力ハンパねぇ。客席全部が舞台上のことに対して気持ちが前のめりになってる感がすごかったです。あんな熱い客席、最近とんとお目にかからなくなった気がする。恐れ入りました。いやはや、やっぱりシアターゴアーとしては経験しておくべき世界だなあと。お誘いくださったお友達に感謝!