「ベッジ・パードン」

三谷幸喜祭り3本目!わりと常連のキャストで固めることが多い三谷さんですが、今回は浅野さん以外の5人中4人が舞台で初顔合わせというフレッシュさ。

超弩級のヘビーさだった「国民の映画」とは打って変わって、三谷さんの軽妙洒脱さがぞんぶんに発揮された作品になってました。いやーよく笑った、思い返せばかなりシリアスなシーンもたくさんあるのに、すごくよく笑ってみていたなあという体感が観劇後残っていた気がします。

以下ちょびっとネタバレ!

個人的に唸らされたのは、主人公の夏目金之助を演じる野村萬斎さんの台詞を「カタコトの日本語」にしたこと。舞台はロンドンで、だから当然会話は英語で、でも英語で芝居をやるわけはもちろんない。そして舞台上の主人公はまだロンドンに来たばかり、英語を流暢に操るわけではない。だから「たどたどしく英語をしゃべっているかのように、日本語を喋らせる」という勝負に出ているわけですね。演るほうからしたらこんなに大変なこともないかと思いますが(できることを「できない」ふうにするのは物凄く難易度高いですよねえ)、飄々とこなしているように見えるからさすがです。

言葉がうまく出てこない、という苦しみは、ほかの何かに例えることがとても困難なことでもあって、それゆえの主人公の孤独感をその設定がいっそう際立たせていたと思いました。

同時に、そのたどたどしさは「笑い」にも直結するわけで、ほんのひとつの設定で雪だるま式に笑いを増加させていく手腕は舌を巻きます。特に、異国での孤独感から「外国人は皆同じ顔に見える」という金之助、そこだけを抜き取ってみたららなんらおかしいことはない。けれど、この舞台のうえでは、すなわち4人以外の登場人物すべてを浅野さんがひとりで入れ替わり立ち替わり演じるというこの舞台のうえでは、その一言が着火剤となって、もうあとは浅野さんが出てくるだけでおかしい、というレベルに達してしまう。もちろん、そのふくらみきった期待感に完璧に応える浅野さんがすばらしいのは言わずもがなです。

しかし、気になったこともありました。というか、一点だけ。これは「ろくでなし啄木」を見たときも思っていたんですけど、三谷さんは女性の「性」の字に重きをおくエピソードになると、途端に筆が滑るというか、んん?となってしまう感じがある。弟の借金のカタに、というエピソードと決断を、ちょっと軽く書きすぎてる感が否めないというか。あんな極端な二者択一でなくても、届いていないと思っていた妻の手紙と、自分と、どちらを取るのか、という選択をせまるだけでも(そしてその結果相手は妻の手紙をとるわけだから)、女性にとっては大いなる裏切りに感じられるとおもうんですよねえ。それに何が可哀想って、あれではグリムズビーが可哀想だ(笑)その部分の「しっくりいかない感じ」は、自分にとってはちょっと残念だったなとおもったところでした。

大泉洋さんは一度舞台で拝見したいなあと思いつつ、ご自身の所属されている劇団の舞台はなかなかチケットに手が届かないということもあって今回初見でした。いやー、三谷さん、すごくやりやすかったんじゃないでしょうか。やっぱり笑いに対するセンスがハンパない。彼が本性を出すキモの台詞のところはもっとどす黒くてもいいとも思いましたけど、なにより何気ないやりとりがすごく光ってました。

萬斎さんはあの台詞を淡々とこなすだけでもすごいですが、それもあって普段の、あの朗々と台詞をものす姿からは想像もできない、小動物のような姿を垣間見ることができて眼福でした。深津さんも台詞に癖のある役をふられているけど、それを感じさせないキュートさ満開で、ほんとにいつまででもかわいいよ深っちゃん!(はあと)最後の台詞、言う前から来るな、と思ったけど、やっぱりきましたね、あの独特の声の切り替え。惚れる。

浅野さんはある意味影の主役といってもいいぐらいの活躍ですが、決して飛び道具的な存在に終わってないところがさすがですよねええ(めろりん)。ほんと浅野祭り御馳走様でしたウフフウフフ。