「盟三五大切」

ずっと見てみたいとおもっていた演目でありながら、今回初見。歌舞伎でのスタンダードな形とはずいぶん変えているんだろうなあと感じましたので、いつかそちらの方も機会を捉えて見に行かねば。

おそらく、最初の予定では、薩摩源五兵衛を勘三郎さんが、三五郎を橋之助さんがおやりになる予定だったのではないかと思われるんですが、いや、橋之助さんの源五兵衛とってもよかったです。色悪をおやりになることも多いけれど、源五兵衛の、おそらくはほんとうにただ人が良いというか、呑気というか、「善人」の部類にいるような佇まいがすごくしっくりきていましたし、だからこそその立ち位置が、ある一点を境に一気に坂を転げ落ちていくところ、そして妄執の虜となっていく姿にも言い様のない迫力がありました。小万殺しの場での、上からの強いサスの光を刀で反射させて、自分の目だけを浮かび上がらせるところとか強烈でした、ほんとに。

五人切の場での立体的な見せ方もよかったなあ。明かりは極力おさえて、虎蔵の家をゆっくりと見せていく。あの物陰に佇む源五兵衛の姿が舞台の上に現れたときのぞっとする感じ!ことが始まるまでのあの静寂と、そのあとの阿鼻叫喚の緩急は見事だったですねえ。

話の筋立てだけを追えば、私があまり得意としない「実は」「実は」のオンパレードではあるんだけど、それが気にならないのが大南北先生の剛腕ゆえなのでしょうか。いよいよ源五兵衛が誰かがわかる最後のシーンでは、百両というその金が動くたびに誰かが死んでいった、その運命のいたずらに飲み込まれたものの哀れさが感じられました。チェロの旋律がその物悲しさをいっそう際立たせていたような。

今回、コクーン歌舞伎菊之助さんが初登場で、やーよかった、ほんとよかった。やはりいつもの座組とはちょっと違う、異質なトーンが入ることで橋之助さんも勘太郎くんも違う魅力が出ていたような。美しいだけじゃなく、その台詞回しもうっとり聴き惚れ。勘太郎くん、もうすっかりどこからどうみてもかっこいいんですが(はい病気)、三五郎としてはもう一歩!踏み込んで!みたいなことも思ったり。今際の際の台詞の力はそれでも圧倒的でとてもよかったです。