「自慢の息子」サンプル

第55回岸田國士戯曲賞受賞作のサンプル「自慢の息子」全国ツアー、気がつけば初日でした。七ツ寺で立ち見の出る超満ぶり(ぎりぎり座れてたすかりました…)。再演なので畳みませんが、未見の方ご注意。

ある男がアパートの一室に独立国を作る。
アパートの隣の部屋には、騒音に近い音楽を聴きながら洗濯物を干す女。
ガイドに連れ添った母親が男の作った国を訪ねる。
日本からの亡命を試みる兄妹を連れながら…
そこから、彼らの奇妙な同居生活が始まる。
誰かの物語に組み込まれたり、忘れ去られたりと、
自分の物語すらかすめ取られていく登場人物たちの点滅劇。
(公式サイトより)

息子である「正」の造型が秀逸に醜悪で、肥大化した自意識をごろっとそのまんま人間の形につくりました、とでもいうような。他者と向かい合うことが出来ず、かといって矮小な自分を受け入れることもできない。そしてもっと厄介なのは、そういって切り捨てることのできない「自分の中の一部」が正という人間の中に見え隠れするところで、これはほんとシーンによってはぞっとした。笑ってられるうちはまだいいのだけど、という感じ。

母親との共依存と見えていたものが、終盤その「母親」がそもそも誰なんだと思わせるような展開と、その母親があの麦わら帽子にベールで振り返ってみせるシーンは劇的でとてもよかったです。

パイプであるという「男」をやっていた古屋隆太さんて、どことなく佇まいが長塚圭史さんを彷彿とさせるというか、まあ役柄的な共通項がそう見せていたのかもしれないですけど、でも雰囲気のある役者さんだなーと思いました。声もいいし。

兄妹の関係、いない息子と暮らす「隣の女」、正とその母、そこに「何か」を投げかけて箱庭を壊すのではなくて、最後にぱたぱたっと箱庭をしまっていくような終幕が、私個人としては食い足りないという気もしつつ、世代が反映されているといえばそうなのかも、と思ったり。やっぱりどこか枠組みを超えていくような展開を求める気持ちが自分の中には抜きがたくあるのだなーと改めて思いました。