「平成中村座五月大歌舞伎 夜の部」

  • 毛抜

勘三郎さんの襲名の時に團十郎さんで拝見したんですが、最後一気に殺伐としますけど途中までは弾正のキャラクターもあってほくほく見られるところがすきな一幕です。秦民部をやった錦之助さんが錦の前に薄衣をかけるとき「ナリコマハッシーソワカ」つってて、耳聡いお客様から笑いがもれてましたね。

  • 志賀山三番叟

鶴松くんと勘九郎さんふたりの舞踊なんですが、その前に上演口上があってそこに出てくるのが勘三郎さんと小山三さん!いやーこの小山三さんの口上はちょっと感動的だったですよ。ご自身でも「こういう口上の席に並ぶのは慣れていないので」と仰っていたけど、すごく緊張されていて、でも観客ももうものすっごく暖かい空気で見守っていて、よかったなあ。名乗りのあとの拍手がしばらく途絶えなかったものね。こういうことをしてくれるのが勘三郎さんの魅力のひとつだよなあ。あと2、3年後には七緒八くんの初舞台、ぜひご一緒して親子4代と舞台を踏みたいと。実現を切に祈る!

小山三さんは今93歳で、まさに最高齢の現役歌舞伎役者、中村屋にとっても歌舞伎界にとっても大切なひとです、と勘三郎さん。この間昭和31年の「歌舞伎界」を見ていたら、小山三さんが「年季の入った女形」と紹介されていて、昭和31年の時点で年季の入った、って紹介されていたんですからね!と。

志賀山三番叟についてのちょっとした解説も交えつつ、短い踊りではございますが、江戸にタイムスリップしたような気持ちで、鷹揚の御見物を、っておっしゃってました。いいなあ、鷹揚の御見物。

ほとんど面灯りだけ、というようなぼんやりした蝋燭の灯りのなかにふたりが登場するんですが、このしんとした空気、芸能というもののそもそもの起源に触れているような感覚がありました。神に捧げるものなんだよねえ、やっぱり。静かななかにも躍動感にあふれた勘九郎さんの実のある踊りっぷりもよかったですし、それに一歩もひけをとらない鶴松くんも見事でした。つーか彼がもう17歳ってまじかー!

  • 髪結新三

この演目も勘三郎さんの襲名の時に拝見しましたよね…そしてその時の印象がおどろくほどうすい…なぜだ…そんな過去の自分をぽかぽかとタコ殴りにしたいほど楽しく、面白く拝見しました。なんでだろう、やっぱりあれからそれなりに時間が経って自分の中にも積み重なってきたものがあるということなんでしょうか。そうだったらいいな。

深刻な状況なのにどこかのんしゃらん、とした梅玉さんの忠七、よかったなあ。彼を足蹴にして朗々と語られる名台詞。しかし黙阿弥という人は「三人吉三」でもそうですけど、小悪党に朗々といい台詞を語らせるひとですよねえ。

新三内の場での菊十郎さんの鰹売り、まさに五月の「目に青葉山ホトトギス初鰹」そのまんま。しかしこの初物をめぐるやりとりでも思ったけど、よく江戸っ子が関西弁を「べちゃべちゃしたしゃべり方」とか言うじゃないですか。私は自分が関西出身だからそれがいまいちぴんときてないところがあったけど、この髪結新三、そして昼のめ組の喧嘩で飛び交うスパッスパッと切れそうなちゃきちゃきの江戸言葉を聞いていると、なるほど関西弁を「べちゃべちゃ」と称するのもむべなるかなと思ったんですよね。

源七に十両の金をまさしく「叩き返す」ところ、そのあとの大家とのやりとり(思い返してもおかしい、あの「10両、いいな」「いいよ」「わかったな」「わかったよ」のときの勘三郎さんの表情!)と、新三の意地とそうはいっても大悪人ではない小ささが絶妙に醸し出されていたなーと思います。橋之助さんの大家はほんとにお父さんそっくりだ!

勘九郎さんは勝奴をやってらっしゃったんですけど、確か襲名の予定演目にこの髪結新三あがってたと思うんですよね。襲名の時は染五郎さんだったなー勝奴…しかし、この新三と勝奴の関係性ってすげえ不思議。なんなんだろう。めちゃくちゃ近しいかと思えば、勝奴には新三を出し抜こうとしているところが見え隠れもするし。

しかしこの勝奴って役はあれだな!目の毒だな!ああーかっこいいかっこいい、もうかっこいいを簀巻きにして食べてしまいたいほどかっこいい。きりきりした口調もだし、手際の良さもだし、あの鍵のやりとりのすっとぼけ感もたまらないし!でもって大家さんにいよいよしてやられた新三を部屋の後ろで見ているときのあのどっか気怠げなかんじ!立て膝なんてついちゃってさ!なにさなにさ!キー!(ハンカチくわえつつ)

平成中村座の連続興行も今月で打ち止めとなるわけですが、最後の最後に、まさに勘三郎による勘三郎のための中村座、みたいなものを観させて頂いたなあ、という満足感でいっぱいです。そして、途中に襲名興行があったというのもありますが、勘九郎さん本当にお疲れさまでしたと言いたい!まだ終わってないけど、終わったら言いたい!まさによくがんばった!感動した!だよ!(古い)私はあなたのファンであることを誇りに思うよ!照れるけどマジだよ!そして、このあとコクーンもがんばって〜!(鬼)