平成中村座連続興行、大千秋楽!!

連続興行もいよいよ大千秋楽、本来は27日が楽日だったんですが、急遽28日の昼だけ追加公演という形になり、もともと千秋楽を見る予定のなかった私がひょんなことから拝見することになったという…いやまあでも、この連続興行のしめくくりを拝見できてよかったです。立ち見も出て、満員御礼という感じ。あとなんか客席もちらほら豪華だった…(笑)

弥生の花浅草祭、悪玉が舞台にひとり残るところで染五郎さんのいたずら心というのかサービス精神というのかが炸裂し、ヒゲダンスにムーンウォークとやりたい放題だったんですが、通人が出てくるタイミングなのになかなか出てこない、袖に向かってこっちこっちと手を振るも(おそらく袖で勘九郎さんはニヤニヤしていたに違いない)通人登場せず、こまった染さまはもう一度前に出て今度はウェーブダンス。しかし間が持たずまたも袖を必死になって手で呼ぶ染五郎さん。もう!きゃわゆ!涼しい顔して現れた通人の勘九郎さんはしかしきっちり踊りおさめるところがすばらしい。いい対比。

石橋、先日拝見したときもお二人の毛振りが凄まじかったんですが、この日は楽日スペシャルというのかなんというのか、いやー…すごかった。回数的にももちろんすごかったのですが、観客の拍手がかなり早い段階から鳴りやまず、そのあと太鼓と笛がぴたっと止まって三味線の音だけになり、その三味線も拍手にかき消されがちでまるで音のない中で二人が踊っているような錯覚に一瞬陥りました。二人ともこうして見ると(毛振りだけではなく踊り手としても)まったくタイプが違う、というのがよくわかり、その二人が文字通り火花を散らしている様を目の前に見ている興奮たるや。いいですね、男の負けじ魂。こうでなくちゃ。

め組の喧嘩、芝居としては先日拝見したときの方が圧倒的な高揚感があったというか、やっぱり芝居として芯があった感じはしました。喜三郎内も前回のほうがぐっときたなー。いやでも、それはそれとして後半の盛り上がりったらないわけで、本心を明かしてからのお仲とのやりとりはいちいちかっこいい。いいのか?いいんだな!のあとの塩を盛ったかわらけを叩きつけるとこ、上手で割るのに欠片が花道まで飛んできてたからね!そうそう、相撲と鳶が向かい合うとこ、亀蔵さんの台詞を「ごちゃごちゃうるせえ!やっつけろ!」つってぶった切ってらっしゃいましたよ、勘三郎さん(笑)

五月公演の間中、昼は中村座夜は新橋と掛け持ちだった染五郎さんと七之助くんが、先に新橋が楽日を迎えたのでこの追加公演で出てくるんじゃないか、なー!と期待しなかったと言ったら嘘になる!(先日観たときに、これ染さまも七之助くんもやりたいだろうなーと思ったんだヨ)なので、立ち回りで彌十郎さんが相撲に扮して出てこられて、続いて七之助くん、染五郎さんが鳶で颯爽と現れたときの観客の興奮ぶりったらなかった。もちろん私もだ!しまいにはお仲であるはずの扇雀さんまで鳶になって出てきた(笑)ちなみにこの日は花道の横の席だったので、勘九郎さんの藤松のふとももとかふとももとかいいだけガン見した私なのであるが、纏を持って花道を駆けてきて、あの梯子をつつつ、とこともなげに昇ってみせるあれはもう、おっとこまえ!以外のなにものでもない。あの人侠客ふうの顔するとすげえ映えますよね…(うっとり)

いやもう立ち回りからあとはほんとに江戸の喧嘩のお祭りさわぎそのもので、観客も浮き足だってたなーと思います。当然のように総立ちでカーテンコールとなりましたが、このあとはカーテンコールというよりも中村座閉場の儀、という感じが強かったと思います。しかし、喜三郎内あたりですごい音がしていたので「えっまさか雨?そんなわきゃないよね」とか思ってたら本当にゲリラ豪雨だったんですね…後ろが開いたら暗雲立ちこめていてびっくりしました。三社祭の御輿がはいってきて、このときにねえ、下手にいた染さまと勘九郎さんが担ぐ?担いじゃう?みたいな感じで顔見合わせてたのがべらぼうに良い光景で、思わず私の心の印画紙に刻みつけたよね。三社祭のことになると目の色が変わるという勘九郎さん、担ぎっぷりも堂に入ってました。ヒューヒューだよ!

最後は勘三郎さんからご挨拶と、みなさんからひとこと。個人的にぐっときたのは橋之助さんが詰まりながら「言葉にならない…」と仰って、勘三郎さんのところにきておふたりが抱き合った姿でした。扇雀さんも仰ってましたが、7ヶ月の連続興行、お兄さんが倒れて…ほんともう、いろいろあったんです、っていやもう、その言葉に万感の思いがこめられてるよなと思いました。続けて扇雀さんの言葉。「人生で、この日のことは一生忘れないなという日が何度かあると思いますが、今日もその一日になったと思います。」

勘九郎さんは七緒八くんを抱っこして出てきて、高々と七緒八くんを掲げて(泣かなかった!エライ)「楽しかったでーす!」七之助くんは鳶の格好で「もっと立役もやりたーい!」(うんうん!)染五郎さんは遠慮して上手の隅っこにいたところを引っ張り出され、初の中村座で、いやもう、お兄さんすごいです!と勘三郎さんを讃えたあと、ぴょこんとはねて「でもボクも負けないもん!」キエーなにこのかわいいいきもの!

彌十郎さんがいらっしゃらないな、ときょろきょろしていたら、最後に客席から力士に扮した彌十郎さんたちと相撲甚句の歌い手のかたが現れて、当地興行の甚句を唄ってくださったのです。これがなんというか、心に沁みるとはこういうことか、とひしひしと感じてしまうなんともいえない切なさに満ち満ちていて、私も他の多くのお客様にもれず思わずはらりと涙をこぼしてしまったのですよ。

最後は勘三郎さんの音頭で一本締め。多分、30分近くあったのではないかと思いますが、お祭り騒ぎの終焉とともに、ひとつの小屋を閉める、というときの厳粛さを肌で感じた時間でもありました。あの相撲甚句も、興行、というものがもつ独特の哀切を体現していたように、役者の声、息づかい、観客の熱狂、そういったそのときは確かにあったものに思いを馳せないではいられなかったです。

無事に千秋楽を迎えられてほんとうによかった。勘九郎さんにとっても、忘れられない7ヶ月だったのではないでしょうか。心から、お疲れさまでした。