「朝がある」ままごと

  • 三鷹市芸術文化センター星のホール 全席自由
  • 作・演出 柴幸男

太宰治作品をモチーフにした演劇作品のシリーズということで、三鷹が太宰縁の地ということでこういう試みがあるっていうのは面白いですね。今回の主題は「女生徒」。しかし、作品そのものを事前に読んでいなくても観劇になんら支障はないです。とはいえ個人的には一読されるのをおすすめしたいところですが(好きな短編なので)。

描写、描写、描写、徹底的な描写によって、文字の羅列が次第に二次元になり、三次元になっていくところを体感できる、柴さん独特の収縮と拡散を一瞬のうちに繰り返すような物語の立ち上げ方。いや物語ではないな。ある意味なにも「物語って」はいないのに、そこにドラマが浮かび上がってくる感じ。あの徹底した描写のなかに、少しの不在を滲ませるところがにくらしくなるほどうまい。何が語られた訳でもないのに、胸がきゅっとなる。

一人芝居であり、ほとんど素舞台のなかに放り込まれるので、最初はなかなか身の置き所のないところもありましたが、音と光がもうひとりのキャストでもあるんだなということに気がついてからはぐんぐん集中して見ることができました。いやーあの照明はすばらしいですね。セットもシンプルでとても美しい。個人的には、どれだけ音にのって不規則なリズムになっても「台詞」であるうちは全く問題ないのですが、それが「歌」にシフトチェンジした瞬間にどことなくいたたまれなさを感じてしまうところがあるんですよねー。あれなんなんだろう。もっと台詞で押してもらう方が私は好きなんだな。

「女生徒」という作品そのものをイメージしているとかなり手触りの違う作品ですが、リフレインの中から浮かび上がるひとりの女生徒の姿と、小説で描かれた女生徒の姿が重なって見える一瞬もあり、なかなか得難い体験でした。