「叔母との旅」

2年前に上演した座組での完全再演。これで浅野さんが二度目の読売演劇大賞男優賞を受賞したのも記憶に新しいところ。浅野さんだけではなく、ステージングで参加した小野寺修二さんもこの作品で最優秀スタッフ賞を受賞されていますよね。

母の葬儀で数十年ぶりに再会した「叔母」との出会いが、それまで決められたレールの上を走っていたヘンリーの、そのレールの行く先を変えていくという筋書き。初演を拝見したときは、4人の達者な役者たちによる、小野寺さんのめまぐるしいステージングの中で一人が数人になり、数人が一人になっていくその作劇方法に目を奪われたところがありましたが、今回は初演に較べると小野寺さんのカラーが減じていたような気がしました。一度見ているからそう思うのかしらん。

その分、各役者たちの役柄への感情がより「たっぷりと」演じられていたような。目まぐるしく役を入れ替え、その都度まったく違った佇まいを見せる、という点ではこの優れた役者4人のなかにあっても、浅野さんに傑出したものがあると思うんですが、そのめまぐるしさが減じた分、高橋克実さんの重厚感が前回よりも効いていた気がします。

叔母がヘンリーに対して口にする「最悪なのは、目の前の死という壁に毎日少しずつ近づいていることを実感することよ」「私といればそんなことはないわ、いつ警察に踏み込まれるかもしれない、いつ銃で撃たれるかもしれない、ただ生きているということを毎日感謝できる」という言葉。彼が敷かれたレールから「降りる」ことを決意させるに足るきらめきが感じられて、ちょっとヘンリーが羨ましくなったりしてね。

それぞれの役者の妙味を味わえるんですが、やはりクライマックスの4人のヘンリーと、ワーズワースが死んだことを告げられたあとの段田さんのあのダンスは、まさの大女優の風格、劇的なシーンですばらしい。まったく段田さんは唸るほどうまい。その中できっちり渡り合っている鈴木浩介さんもさすがです。

パンフレットを作成されていないようでしたが、かわりに入場時に折りたたみのリーフレットを配布してくださっていました。スタッフ・キャストの表記と再演にあたっての演出家のコメント、そして役者陣よりひとこと。広げてもチケットとそう変わらないぐらいのサイズで、かさばらず、これは嬉しいいただきものだなあと思いました。