「ボクの四谷怪談」

奇しくもというか、今回の遠征で観た3本は多かれ少なかれ「音楽」が作品に関わっていて、そしてなぜか見た順番にその比重も大きくなってくるという、これなんてリンクなんでしょうか。
そしてこの3本を立て続けに観たことで、自分が「音楽劇」に類されるものをいかに苦手としているか、ということも実感しましたね…

脚本は橋本治さんで、題材はあの東海道四谷怪談。筋書きはほぼそのまんまに(お家断絶、といったような設定もそのまま台詞として残している)しながらも、「知っているのに知らない」四谷怪談を観るようでそこはとても楽しんで観ることができました。たとえばこの作品では伊右衛門はお岩に「血の道の妙薬」と偽って毒を飲ませないし、二人の間に生まれたはずの子供は流産したことになっているし、もともとの四谷怪談でもどこか受け身でありながら業悪、といった設定の伊右衛門と較べてもさらに受け身で、これでどうして岩が伊右衛門を恨むのか、と考えていたらラストに繋がってきてへーなるほど、と。

そのラストはシェイクスピアもかくや、なモノローグをほとんど素舞台でやらなければならない伊右衛門役の佐藤隆太くん、こういうシーンは会場全体を一気に掌握するか、そうでなければ言葉が宙にどんどん浮いてしまって最終的になにやってんだかわかんない、みたいなことになりがちなんだけど、うううむ、悪いとは言わないのだけど、あと一歩って感じかなあ。あそこでは有無を言わせぬ力で押し切ってほしいのだよね、観客の心理としては。

これでもか!といわんばかりの豪華なキャストを揃えていて、誰しも思うことでしょうがやっぱりちょっともったいないよなあ〜〜。それだけ分厚い舞台が出来上がっているということでもありますが、個々の役者のファンには食い足りないところもあったのではないかと。勝村さんもきっと出番が少ないよねーと覚悟していたんですが、思っていたよりはいろんなところで出張っていて楽しかったです。ベテランチームと若手チームのブリッジみたいな存在でしたよね。

その若手チームのなかでは佐藤与茂七をやった小出恵介くんがとくに印象的でした。まず与茂七の役所をこんなにも嫌味な男にするか!というのが新鮮だったし、その嫌味極まりない男をこれまた非常に楽しげに、そして憎々しげに演じてらっしゃってよかったなー。小出くんの舞台拝見するの3本目くらいだと思いますが、その中でもピカイチに輝いていたと思います。いいなー、祈りと怪物がますます楽しみですよ。

そしてなんといっても尾上松也くん!なんだろうなあ、芸の力というのはこういうこと、というのをまざまざと見せつけられた感ありましたね。たったひとり古典の風情でお岩をやりきるところも勿論ですが、ラストにいたるまで客の視線を惹きつけて離さない力があったなーと。あと勝地涼くんはホントこういう役多いよね!それがまた似合っちゃうんだらもー(笑)

そんなこんなで全体的には…というか、物語の筋としてはとても楽しんだと言えるんですが、これはほんとに私の好みで申し訳ないんですけど、歌がなけりゃもっと好きだったろうなーとか思ってしまったんですよねえ…。やっぱり芝居における解放のベクトルと歌における解放のベクトルってちょっと違うような気がする。ミュージカルぐらいガンガンに歌、歌、歌で押してもらえるのはそれはそれで心地いいんですが、台詞と歌のブレンド具合がちょうど苦手な配分だったのかもなあ、と思ってしまいました。