「こんばんは、父さん」二兎社

思えば二兎社を見るのも久しぶりです。新・明暗以来の二兎社登場になる佐々木蔵之介さんのご出演でしかも平幹二朗さんと顔合わせ、さらにタイトルがあの傑作「こんにちは、母さん」を髣髴とさせるときちゃ見ないわけにいかないでしょっていう。

まだ東京公演初日あけたばかりなので、以下畳みます。

「こんにちは、母さん」では「すでにいない父」と息子の断絶が描かれていて、それは作品の大きな柱となっていたわけですけれども、今回は断絶した父と子の「それから」を描いている、もう届かない「なぜ、あの時」ではなくて、それを言いたい相手が目の前にいる、しかも、あの頃には思いもつかなかった状況で。

個人的には、もうすこしあの親子の対話にひりひりしたものがあってもよかったのかなあとは思いました。初日にしてはやわらかい客席で、なんとなく決まるはずの球が決まりきらなかったような印象があったのもあるのかも。断絶が深ければ深いほど、あの最後の父親の台詞が胸に迫ってくるような気がするんですよね。お互いに、どこかで赦せていないという最後の氷が、あの言葉で溶けてほしかった、という感じ。

親子のみならず、借金取りの青年も含めて「どこかダメ」どころか「てんでダメ」な彼らですが、しかし三人ともに人間としての愛嬌があって、どうにかなってほしい、どうにかしてやりたい、という気持ちを起こさせるのはやっぱり永井さんの描く人物像の魅力なんだろうなあ。

劇中で母親のことを語るシーンで蔵之介さんがかなり入り込んでいて、そのあとも結構引きずってたのが印象的でした。でもあれは感情が昂ぶっちゃうのもわかる。

蔵之介さんは音がしそうなほどビシィ!とスーツで決めてくるシーンもあるかと思えば、その格好で昔取った杵柄、みたいなことまでやってくれてやー楽しい楽しい。しかし私を殺したのは終盤、階段にひざを抱えて座りこみ、首をかしげて手すりに頭をもたせ掛ける蔵之介だ!ぎゃーーー!ちょっと!なに!やめてそのへなちょこ基本姿勢その1!こういうのにもれなくヨワいんだよ俺は!あまりのことに変な叫び声が出そうになったためあわてて自分で自分の首を絞めたね…(文字通り)ハアハア蔵かわいいよ蔵…!

そんな蔵に負けず劣らずチャーミングだった平さん、「若い頃モテモテだった」というその設定に無理なく頷ける色気と可愛らしさ、そして哀愁。溝端くんも(あの親子じゃないけど)そんな業界足を洗いなよ、と手を引っ張ってあげたくなっちゃうへなちょこ感、よかったです。