jus cogens


「アルゴ」見てきました。
すごい、いやすごかったです。個人的に「手に汗握る」どころですまないものがありました。あの最近よくある映画のCMの、暗視カメラで泣いてる人や驚いている人を撮るっていう品性のカケラもないアレ、この映画を見ているときの私を暗視カメラで見られていたら文字通り身を捩って手を合わせて祈りあげく嗚咽するわたしの姿を撮られていたことでしょう。いや嗚咽するような映画じゃないです、確かに。でもあまりにも映画に入り込んで見てしまった。結末を知っているのに、身を捩って祈らないではいられないほどに。

すごくおすすめなので、ぜひ見に行ってください。これから見に行く方ここから先は回れ右。
これほどまでに入り込んで見てしまったのは、自分の仕事のこともあるのかなあと思います。あまりにもリアルだった。実話をベースにしているのだから、そりゃリアルだろうよと言われてしまえばそれまでだけど、でもそういうことだけじゃない、肌で感じるリアルさがありました。最初の15分からそのリアルさにふるえてしょうがなかった。

たとえばどれだけ陰惨であったり、凄惨であったりしても、それはそれとして物語を楽しむ、というスイッチは持っているほうだと思います。でもこの映画を見ているときはそのスイッチが働かなかった。冒頭の、実際のフィルムを混在させる見せ方がそれを加速させたところもあると思いますが、自分でもどうしてここまでこの物語を「自分と地続きのもの」として見てしまったのか、不思議に感じるほどです。

後半のサスペンスを盛り上げる要素のひとつひとつが、盛り上げるためだけの道具にまったく見えないのもすごかった。EDカードの照合からゲート前のチェックまで、イスラエルに行ったとき、まさにああいった手順で審査官から「穏やかだけど容赦のない」出国審査を受けたことを思い出しました。

映画という枠組みを信じさせるためのあれこれももちろん魅力的だったのですが(あの読み合わせと現実のシーンが重なっていくとこのすごさね!)、やはり主人公がイランに入国してからの物語の牽引力に完全に持っていかれました、私は。

6人の中で最後までこの作戦に懐疑的だった男が、彼らの録りにきた「映画」を語るシーンはこの映画のクライマックスといっても差し支えないと思いますが、そこをペルシャ語で語らせるというのもすごい。これが普通の映画なら、「なぜか」あそこでは皆英語が話せて「なぜか」滔々と映画について長広舌をぶつ、という展開になっていてもおかしくなかったと思います。

ゲートを出たあとは、搭乗してくれと祈り、搭乗したあとは離陸してくれと祈り、離陸したあとは領空を出てくれと祈り、だからあのアナウンスが聞こえた瞬間に、おれは泣いてしまったんだよ。誰もが懐疑的で、誰もが薄氷を踏む思いで、叫びだしたいような状況にいて、けれどその中でひとりひとりが「人道的」なふるまいをする。だからこそのあのエンドクレジットがぐっとくるのだ。

いやーほんと、面白かった、いや面白かったというのでは言葉が足りない気がする。揺さぶられました。映画というのはひとつの体験である、それを実感させてくれる1本でした。