「葛城事件」THE SHAMPOO HAT

赤堀さんの作演の芝居は拝見したことあるんですが、劇団公演は初めてです。新井浩文さん初舞台、岸田戯曲賞受賞後第1作といろいろ話題も重なりチケット激戦だったようで、自由席だけど取れたのラッキーだったなーとあらためて。

そう、自由席だったのです。つまり最前列のベンチシート。この歳でスズナリのベンチシートまじきっつい!いや、贅沢言っちゃいけませんね。折角の機会なので、滅多に拝むことができないだろうと思われる新井さんの足の裏(裸足のシーンが多かったの)をガン見したりしておりました。新井さんの食べかけの魚肉ソーセージの欠片が頭に降りかかってきたりするのもベンチシートならではですね。堪能しました。堪能しました。

実在の事件を題材にしており、台詞なども引用されている部分も多かったように思いますが、あれだけ救いようのない悲惨な出来事を忠実に描き、またその犯人であった人物像を描きながら、観ていて心が痩せるような思いをしなかったのが不思議な感じです。たとえば「国民の映画」や「ザ・キャラクター」を観たときの、現実と地続きであるが故の砂を噛むような感じがなかった。もちろん重さはあるのですが、事件そのものの重さではなくあくまでもあの「家族」の重さだけをきちんと渡してくれた感覚があります。

誰かを傷つけることでその人よりも優位に立とうとする、実のやっていることはその繰り返しです。あまりに幼く、そして幼いということばでは片付けられない凶暴さだけがどんどん大きくなっていく。けれど彼もかつては、砂浜で両親に心配される子どもであり、その名のとおりすくすくと成長することを願って父親が柿の苗木を植えるような祈りに満ちた子どもだったのだ。

個人的には、実と獄中結婚する女性の造形がほんと心の底から嫌いなタイプで、もう、これが舞台じゃなかったらぶん殴ってる、と思うほどに嫌いなんですが、面会室で暑いも寒いも無駄じゃないですと語る時の彼女、自分のバカバカしい思い出を語るその時の彼女の言葉には力があったし、だからこそあの実の心情の吐露に繋がっていくんだろうなあと思えました。

新井さんの役は相当にヘビーで、初舞台ですげえなあ、と思うと同時に初舞台だからこその初々しさというか、役と同一化しすぎないところがいい具合に作用している気もしました。最初で最後と言わず、またぜひ舞台の方でもお待ちしています(笑)