「木の上の軍隊」

井上ひさしさんが藤原竜也くんの主演で構想を練り、しかしながら成就することのなかった作品を蓬莱さんと栗山さんのタッグで1本の舞台に。先日放送されたNHKの特番でも取り上げられていて、なんにも考えずにその番組を見てしまったんですが、舞台の展開のみならずラストシーンまで心ならずもがっつり拝見することに(笑)

太平洋戦争当時、ガジュマルの木の上に隠れていた二人の日本兵が、終戦を知らずに2年間もその樹上で生活していたという実話を基にしています。舞台中央に大きなガジュマルの樹、キャストは二名の兵士とガジュマルの精。木の上から降りれば敵に見つかる(と彼らは思っている)、自分たちはここを動くことが出来ない(と彼らは思っている)、ある意味でこれは密室劇でもあるわけです。解放された密室での男二人の会話劇。他者がいることで生じるひずみ、いらだち、そして相手の消滅をも望んでしまう心理。そのスリリングさが存分に味わえたなあと。

先に触れた特番でも触れていましたが、二人の兵士の会話は現在の日本と沖縄の問題をも指すサブテキストに満ちています。正直、ラストシーンをテレビで見たことよりもその意図を知ってから観たことは若干後悔しました。やっぱりそういうのは自分で気がつきたかったし、気がついて世界がぐっと広がったように感じるのが醍醐味というものですよね。

実際に当事者の二人の言葉なのか、それぞれ竜也くんは沖縄の言葉で、山西さんは日記のようなものを訥々と語るモノローグがあり、それがまったくもってすばらしかった!ふたりとも本当に力のある役者さん。新兵の、どこかのんきにも聞こえる言葉の響きと、語られる内容の切実さの距離が果てしなくて、聴き入らずにはいられなかった。

あなたはこの島の人間じゃない、だから「最後には悲しくない」んだ、という言葉、それが今も続いているということを考えずにはいられない作品でした。