「断色」

クローン技術の進んだ未来、工場で農作物が生産される世界で自然農法にこだわり続ける男のもとに、訪問者がやってくる。彼は言う。「お母様はクローン保険に加入されていました。お母様の死亡後そのクローンの処分は一人息子であるあなたに決断していただくことになります。処分しますか?解放しますか?」
以下ねたバレにつき畳。
母親であり母親でない女の生と性。命を作ること。命を捨てること。それに対する鈍感さ。虚構の世界ではありますが、半分その世界に足をつっこんでいる、というようなひたひたとした感覚もあった舞台でした。かなりきわどい台詞がこれでもか、と続く場面もあり、下ネタがどうこうではなく(あれは下ネタなんでしょうかね?下ネタ、と登場人物が言う度になんか違和感がありました)嫌悪感を感じる人もいるかも。堤真一田中哲司という手練れの二人に麻生久美子さんという座組で、麻生さんのあの透徹した美しさと、それとは真逆の台詞たちと、っていうのはかなりなインパクトがあったのは確かです。

見ながら思ったのは、やっぱり得手不得手というか、こと円形劇場に限っていえば、やっぱりスズカツさんやケラさんの使い方のほうが好きだなあと思ったのも正直なところです。周りの壁をスクリーン替わりに映像を映し出すのを多用してらっしゃったのですが、あまりにも説明しすぎな気がしました。あの映像がなくても同じ景色を思い浮かべるぐらいの想像力を信頼してくれてもいいのではないのかなあ。あと、ラストシーンで全員が同じ方向に顔を向けてる形で幕になるんですよね。円形は見えるものと見えないものがあるからいいのであって、あんなふうに正面が決まってしまうのはあまりにももったいない。

しかし、この円形劇場という空間における田中哲司の圧倒的ともいえる存在感はすごい。円形劇場でのどを掻き切られる役がこんなに似合う人いるだろうか。もう、これこれこれ!これだよこれ!感ハンパなかったです。出てくるだけで地場が歪んでみえるような空気。ああ〜、円形で田中哲司vs鈴木浩介、イギリスの半地下系役者ガチンコ勝負とか見たいわあ〜、と思わず妄想してしまうほどときめきました。

当日配布のリーフレットにプロデューサーである細川さんからの挨拶があって、開演前にそれを読んでひとり来し方行く末を思ったりしたのですが、それはまた別項で。