「ジュリアス・シーザー」子どものためのシェイクスピア

歴史上の人物としての「ユリウス・カエサル」や名台詞「ブルータスよお前もか」とかは知ってるんですけど、逆にこの戯曲のことは殆ど知らないな〜、というのを改めて思いました。シーザーがタイトルロールだけど話の中心は完全にブルータスだしね。

このカンパニーでシェイクスピアのローマ史劇を取り上げるのは今回初とのことですが、同じローマ史劇のくくりというとコリオレイナスとかですよね。コリオレイナスはまだ母親という強烈な存在があったけど、ジュリアス・シーザーはもう、女性の影が徹底的に薄い!つまり限りなく男くさい!しょっちゅう「俺がこの男をどんなに愛していたかを!」(友愛ですもちろん)とか言うし!すぐ「抱かせてくれ」(友愛ですもちろん)とか言うし!

まあでももともとの「ブルータスよ、お前もか」(シェイクスピアの名台詞として名高いですが、史実として言い伝えられてもいるそうですね)って台詞自体がもう男と男のドラマですもんね。ヘミングウェイの「6つの単語で出来た物語」*1ではないけど、この一言で立ち上がってくるドラマ性は確かにすごい。

物語としてはそのシーザー暗殺の場面を挟んで、ブルータスの決起の演説、そしてアントニウスのシーザー追悼の演説が眼目なのかなーというところですが、このカンパニーならではの手腕が光ったのはラスト、いよいよ命を絶ったブルータスがシーザーの亡霊に語りかける、復讐は果たされた、安らかに眠れ。そこでシーザーがブルータスに返す、「お前もな、ブルータス」。ぎゃー!あの名台詞をこう反転させますか…!そしてそのあとに続く混乱と内乱の世を体現するかのように、黒衣の人々がだんだんと崩れ落ちうずたかく積み上がる…というシーンで幕。いやーすばらしい。

そういえば劇中に「お前は自分を見たことがあるか」「しょっちゅう見ている」「鏡なしでだ」「鏡の中のお前はお前じゃない」ってやりとりがキャシアスとブルータスで交わされてて、ええっLYNX…!とちょっと興奮したとかしなかったとか。したんですけど。

これ、蜷川さんがさい芸のシリーズでまだやってらっしゃらないようなのですが、見える、私には見えるぞ。そこに勝村さんがキャスティングされてキャシアスかアントニウスかをやっている姿が!そう、決してブルータスではない(笑)キャシアスはキャシアスでおいしい場面もあるのだが、しかしアントニウスはなんと言ってもあの追悼演説があるからなー!夢はふくらみますネ!

*1:"For sale: baby shoes, never worn" 売ります:赤ちゃんの靴、未使用。後にかれはこの賭けで生み出した物語が自身の最高傑作であると語っていたそうです。