「冒した者」葛河思潮社

KAATの大スタジオって初めてだなー、スタジオっつーぐらいだからフラットで客席パイプ椅子かなーとか想像してたんですけど、全然違いました。大スタジオという名の小劇場でした(公式サイトにも小劇場って書いてあった)。印象としてはトラムのもっとあけっぴろげな感じ,特に舞台側が。ちょうど真ん中あたりのお席でしたが、段差もあって見やすかったです。

葛河は「浮標」を見逃しているので今回初見です。いやあこれは、見応えはものすごくあるけれどなかなかに観客の集中力も必要とする舞台だなー!と改めて。何しろ三好十郎の戯曲の「ことば」がともすればそこだけ浮き立って見えてしまうほどに特徴的なので、これを乗りこなす役者陣はこりゃたいへんだなと。

戦争という大きな動揺のあとで、達観する者、迷う者、開き直る者、露悪的になる者、純粋さを追い求める者…とそれぞれの姿が描かれますが、危ういバランスの上に成り立っていた知人の顔が一石を投じることによって「知らない顔」になっていくスリルがありましたね。でもって、それは2年前の春以降の自分たちにも重なるところがあるよなあ、などと思ったりもし。

キャストの中ではやはり、田中哲司さんに一日の長があるというか、対話だけでなく厖大なモノローグを完全に自分のものにして舞台を支えている姿はもう、天晴れとしかいえません(これもしヘタな役者がこの役だったら地獄の3時間だっただろうと思うよ、私…)。若宮はそのキャラクターも演じている中村まことさんも大好きなので見ていて楽しい人物でした。逆に省三は(尾上くんは好きだけど)キャラクターにいらいらしっぱなしで、わーもう、ひっぱたきたい!と何度も思いました(笑)舟木もあの得体の知れなさがいい。最初は妻の妄想に引っ張られるんだけど、そのうち妻の他力本願ぶりが逆に際立ってくるのも面白かったです。一石を投じる須永を演じた松田龍平くんは、役柄もそうなんだけどどこかに「異物」な感じがあって、その計り知れなさがよかったな。モモちゃんとのシーンとか意味もなくこわかったよ…何か、しでかす、っていうひたひたした予感に満ち満ちてた。

個人的には裸足で演じられるってのはポイント高かったすね(すいません舞台上の裸足が意味もなく好きで)。あと、そんなかぶりつきの席で見た!というわけでもないけれど、松田龍平の綺麗さにびっくりしました。なんだあの綺麗な顔。すんげえ男前とかそういうのじゃなくて、綺麗。基本的に舞台で見るときは顔の造作関係ねえ、それより声だよ、声!声と立ち姿がよくでナンボだよ役者は!と思っているのですが、カーテンコールのときとかほんっと綺麗な顔だね…とまじまじ見ちゃいましたヨ思わず。