「片鱗」イキウメ

ホラー、と銘打たれていて、ホラー苦手な私はちょっとびびりつつも前川さんの書くホラーなら大丈夫なんじゃないか…と足を運びました。いや、奇ッ怪とか大好きだし。
以下、最後の展開に触れてる部分もあるので、これからご覧になる予定の方はご注意を。

そもそもホラーというジャンルのものに触れることがほとんどないので、ホラーの定義といわれても語れるわけもないですが、私の中でまず「理不尽」というのは重要な要素ではあるような気がします。そして自分が一番「怖さ」を感じるのはその「理不尽」が物語と一緒に終わらない、という構図。つまり本を閉じたり、劇場を出たりして物語は終わるけれど、その理不尽さを引きずっていかなきゃならない…というのが一番怖いんですよね。

という点でいくと、まさにこの「片鱗」は「それで終わらない」パターンの物語で、終盤になればなるほどああもういやな予感がする、いやな予感しかしない、という空気が漂ってくるし、その予感の行き着く先を見届けて、砂を噛んだような気持ちがどこかに残るという…まさにホラーでした。

どこにでもある住宅地の四つ角、表面上は絵に描いたような美しい「隣人愛」であふれるその十字路の水面下にあるそれぞれの心の襞が、「呪い」といわれるものによってその人間自身を飲み込むほどの大波になってしまう。そのもともとあるものに火をつけるだけ、という構図もなんというか、絶妙ないやらしさですよねえ…。

円形に4つの四角いスペース、そして十字路。席の位置的に、十字路の床がまったく見えなかったのはちょっと残念だったかなー。

今回は手塚とおるさんがゲストでしたが、この人もまた独特の肉体を持ったひとだよなあと改めて感じ入りました。身体の捻れや歪みの見せ方も凄いし、質量を感じさせない歩き方というのか、まさに「異形のもの」という言葉がぴったりはまる佇まい。一言も台詞を喋らずにあの存在感。脱帽です。