「ジュリアス・シーザー」

去年の夏、子供のためのシェイクスピアでこの「ジュリアス・シーザー」をとりあげてて、その時にこれ蜷川さんやったのかな、やってないなら是非見たい、と思ってたらそれが翌年に叶うという。すばらしき!

これで蜷川さんはローマ史劇コンプリートになるのかな。この作品が最後の番手になったのは女性の登場人物が殆どいないというキャストバランスによるものなのか、蜷川さんの好みによるものなのかわかりませんが、いやーしかし期待通り、いや期待以上でした。コリオレイナスのときと同じように、舞台全面に大階段を設えて暗殺場面や戦闘シーンまで見せてしまう剛腕さ、美しい衣装、メインキャスト4人の間違いのなさ!大階段を使ったセットだったので、2階席でもまったく遠さを感じなかったのもありがたかったです。

作品の眼目としてはやはり1幕の暗殺の場面、「お前もか、ブルータス」の名台詞、そしてブルータスとアントニーの演説だろうと思いますが、このアントニー藤原竜也をもってきたというのがほんとすばらしい!竜也くんが蜷川さんと組むとほぼタイトルロールの悩める青年というのがデフォですが、このアントニーはそれとはまったく違う人物像で、狡猾にして大胆不敵、阿り、諂い、虎視眈々と一発逆転を狙う野心を秘めている。アントニーの演説というのはそれだけで形勢を逆転させなければならない、という説得力を必要としますが、それをこちらに納得させる彼の千両役者ぶりよ!いやもうすげえな、と思ったのは1幕ラスト、シーザーの暗殺のあとブルータスらの許しを得て再び登場する場面です。シーザーという自分の第一の庇護者が暗殺され、次は自分だろうという死への恐怖、シーザーの遺体を目の当たりにして動揺する心、ひとつ足場を違えれば自分もこうなるという綱渡りのスリリングさ、そういうものを全身で体現していて、もうあの場面、アントニーにしか目がいかないものなあ!

それにしても、先に違う演出での「ジュリアス・シーザー」を見ているからこそ思う、蜷川御大の心に飼ってる乙女のポテンシャルの高さ、ハンパねえ。公式が薄い本分厚くして角で殴りにきたぐらいのインパクト。まあ、確かに女性がほぼ出てこないうえに、台詞で「おれは確かにあの男を愛していた」的な友愛台詞を連呼する、するが、それだけじゃないんですよ。まあ吉田鋼太郎さんのキャシアスが大石継太さんのキャスカにぶちゅーとやったりしてますがそれはまあお遊びですよ(お遊びなんかい!)なんなのあの2幕のテントの中でのキャシアスとブルータスの痴話喧嘩。椅子投げて机ひっくり返して掴みかかって挙げ句の果て泣き崩れて「きみはおれを愛していない!」だの「おれの欠点をゆるしてくれなくちゃいけない」だの、「さっきは悪かった」だの、なんなんや!君ら、なんなんや!泣き崩れたキャシアスがブルータスに手を貸してくれつって抱き起こしたときほんと距離が近すぎて「待て!早まるな!」(いや早まってもいいけど!)って括弧付きで叫んだよね心が。

キャシアスの死のシーンや、そこに駆けつけたブルータスがキャシアスをお姫様抱っこ(あの階段でマジすげーよ阿部ちゃんという物理面での感心と、ちょ、ちょ、その体勢…まさか…!という心情面での歓心がない交ぜになりましたともさ)するとかいう爆弾があちこちで爆発してましたが、なにより私が震えたのはフィリパイでの戦闘に赴く前のキャシアスとブルータスの別れの場面です。これが最後かも知れない、もし再び会う時は、笑顔で。再び会うことができなければ、良い別れができたということだ、という非常にいいシーンですが、それまで意味もなく(ないってことはない)ハグだの握手だのキャスト全員がやってるくせに、ここでは手ひとつ握らせないんですよ!おまえ!萌えをわかりすぎてる!!と私は思いました。思いました。なんか皆さんの期待している芝居の感想からどんどん離れていってる気がしますが気にしません。

あと今回の衣装、もちろんローマ風の衣装にマント、もうそれだけで目の保養ですよね。マントの裾を跳ね上げる仕草ってどうしてこうもかっこいいのか!2幕のブルータス軍とアントニー軍は同じローマ市民でもあるので、基本的に衣装はどちらも白が基調、ブルータスたちには赤のワンポイントが入っていて、アントニーたちは純白と生成の白の組み合わせ。間違いない。間違いない。たっちゃんアントニーがあの階段の向こうに赤い月を背負って出てきた時、ひさびさにこの台詞が私の心にこだましたよ。白いのが、勝つわ…!

阿部寛さんの威風堂々たる佇まい、誠実であるからこそ慕われ、担ぎ上げられ、その誠実さで自分の墓穴を掘ってしまう男のかなしさ。吉田鋼太郎さんは縦横無尽、愛されキャラ爆発、愛嬌をふりまくにもほどが!という存在感の確かさ。ツナ太郎さまファンにはぜひ目撃していただきたいよあの痴話喧嘩を…(そこか)

ロングコートに帽子をかぶった男達が三々五々集まり、鐘の音とともにその衣装を放り投げ一気にローマの世界へ突入するオープニングの鮮やかさ、ハッタリぶり、御大さすが、さすがです!あ〜〜ほんと、大満足でした!!!