「黒塚」木ノ下歌舞伎

  • 三重県文化会館小ホール 全席自由
  • 監修・補綴 木ノ下裕一 演出・美術 杉原邦生

木ノ下歌舞伎はちょくちょく名前を聞いていて、1週間前に猿之助さんの「黒塚」を歌舞伎座で見たばっかりだったので、このタイミングで見られたのはよかったなー。歌舞伎座での記憶が新鮮なので、こちらの舞台で歌舞伎の芸をそのまま写している場面、そうではない場面の対比も面白く見られました。

筋立てはまさに歌舞伎の「黒塚」のまんまです。阿闍梨祐慶らと強力はキャンプかフェスの帰りかのような出で立ちで台詞も基本的に現代口語。対する老婆は台詞も発声も姿勢も基本的に歌舞伎での見せ方を踏襲しており、その両者がちゃんと並列で存在しているのがいい(おばあさんの言ってることがわからない、というツッコミは強力が一度するだけ)。老婆が糸繰り歌を歌う場面で、歌が次第に中島みゆきの「時代」にシフトしていくとこ面白かったなー。阿闍梨祐慶の諭しがラップで刻まれるのもすごくいい(というか、まさにJ-POPの歌詞ってこういうこと言ってるじゃんね…!と自分の中で現在と黒塚の世界がリンクする一瞬でもあった)。あと、昔からこれは私の好みなんですけど、殺伐とした場面にロマンチックなBGM流すのが異様に好きなんですよね…。音楽の使い方が随所で際立っていたなあとおもいます。

あと、演劇とは見立てることである、じゃないけど、先日歌舞伎座で黒塚第二景の、あの圧倒的な装置を見た後だからこそ、余計にこの「一面の薄」の見せ方に興味があったんですけど、セットの四隅に薄を立てる、それだけで「一面の薄」になるんですよね、芝居って。それがほんとにおもしろい。物量のうえにも、引き算のうえにも同じ効果が生まれる可能性があるっていう。

歌舞伎の黒塚では、阿闍梨祐慶らが閨の裡を見る場面は描写されていない(そのあとの台詞で見たことはわかる)けど、その場面をかなりいやらしく作っていたのも印象的でした。最後に鬼となった岩手が雨の音のようなものに取り囲まれるけど、あれは数珠の音でもあるのかな。それを感じさせるニュアンスがあっても面白かったかも。

岩手を演じた武谷公雄さん、出色の出来。最後に影をひきずるようにして闇に戻っていく幕切れもふくめて、濃厚な1時間半でした。三人吉三も見てみたいなー。