「フォックスキャッチャー」


実話、誰かが誰かを射殺、というざっくりにもほどがある認識で出かけたので、逆に見ている間「この中の誰かが…誰かを…」と無駄に緊張してしまいましたし、その緊張がほぐれてきたあとはスティーヴ・カレルの醸し出す緊張感にのまれ、もう見終わったあと尋常じゃなくぐったりきました。

映画の中で何度も繰り返し出てきた「メンター(Mentor)」という言葉。己を導く者を渇望するもの、導くことを渇望するもの、それらの葛藤から離れたところにいるもの…。描かれる父子関係はすべからく「擬似」であるのに反して、ジョン・デュポンと母の関係性の骨絡みなところ、「母に認めてもらいたかった」というだけではすまされない根の深さを感じました。だってあの、練習場に母親が見に来るシーンの、あのいたたまれなさよ!メンターであろうとし、そう振る舞うあの場面のデュポンはもはや醜悪でもあったし、だからこそ「もういい、もういいよ」と声をかけたくなる切なさもあって、いやーほんと、心に重しがドカドカ乗りまくったシーンでしたね…。

チャニング・テイタムなんて、どこをどうやってもイケメンにしか見えないタイプの俳優さんだと思うのに、どこかうだつのあがらない、冴えなさと鬱屈を常に身に纏っているマイクをがっつり体現しててよかった。あのやけ食いしちゃうとことかほんと…だめなやつ、と思う前に心を寄せて見ちゃう何かがありました。マーク・ラファロもまったくラファロに見えないなりきりぶり、そして彼の一種残酷な無邪気さね!スティーヴ・カレルは物語が進んで緊張の糸がだんだんと張られていくにつれ、ほとんど表情を動かさないにもかかわらず物語における「感情」を一手に引き受けたかのような求心力がすごかった。目が離せないってこのことかという。3者3様のすばらしい演技バトルを見られたなーと思います。