「聖地X」イキウメ

プランクトンの踊り場」の改訂改題再演とのことですが、そちらは未見です。聖地X、いいタイトルですね。きわめて特定された場所を示す「聖地」という言葉と、Xという未知数との組み合わせ。まさしくそういう舞台でした。

イキウメで描かれる独特の、オカルトともファンタジーともちがう「ふしぎ」な出来事。わたしは個人的にそういった現象にあまり食指を動かされない方なのですが、前川さんはつくづくそこの匙加減が絶妙だなと思います。でもって、あらためてその匙加減は安井さんを筆頭にイキウメの役者さんによるところも大きいなと思いました。たとえば今回の舞台で取り上げられる現象を「ある」にしろ「ない」にしろ情で訴えかけられると、それだけで辟易しちゃう部分があると思うんですが、安井さんはその「ふしぎ」へのブリッジのかけ方がおそろしくうまい。頭から否定するでも、鵜呑みにするでもない。そのスタンスが、「ふしぎ」の入り口に立っている観客を物語世界に誘導してくれているとおもう。

それが現象であるならば、まずはそれを立証しよう、という動きが物語の中で展開するんですが、その見せ方がほんっとにうまい、かつユーモラスなテンションも失ってなくて素晴らしいなと思いました。シュークリームとコーラ。なんでもない動きなのに、彼が冷蔵庫からコーラを出した瞬間の観客の声にならぬ「あっ」という声。ああいうのってまさに演劇ならではの体感ですよね。

現象の謎解きがなされたあとで思い返すと、島と藤枝の細かい齟齬がちゃんとその轍を踏んでいることがわかるのもよかったなあ。ラスト、自分の思いが分裂を生み出すのなら、3人目を「いない」と思う人物がいればいなくなるのでは…?と思ったんですけど、「いる」ことを思い込むより「いない」ことを思い込むほうが難しいのかな。

冒頭で語られる、そこに石を置き、しめ縄をかけると、そこに人間は勝手に神を見る、拝む、神を見た場所が曰く付きの場所になる、もとの石にはなんの力もなくても。まさに聖地X。

「面白全部」と嘯きながら現象を解読していく輝夫と、同級生という江口のコンビよかったなー。盛さんも「理」を柔軟に見せられる役者さんですよね。そういえば輝夫という役名は「暗いところからやってくる」の主人公でもあったけど、前川さんお気に入りの名前なのかな(笑)