「ウーマン・イン・ブラック」

  • パルコ劇場 X列15番
  • 原作 スーザン・ヒル 脚色 スティーブン・マラトレット 演出 ロビン・ハ−フォ−ド

斎藤晴彦さんと上川隆也さんの組み合わせで上演したのを一度拝見しています。その時もね、ほんとこわかった、こわかったんだよなあ。今回、なんと斎藤晴彦さんのあとを継いだのが勝村政信さんという!えー!意外!って思った,最初は。だってあまりキャラクターのかぶるお二人ではないからさあ。ヤングキップスを演じるのはこれが二度目の舞台となる岡田将生くん。

前回観た時の記憶が強烈に残っているシーンと、観ながら「あっそうだった…そうだった…」って思い出して恐怖がじわじわくるシーンがあり、しかし何が起きるかわかっているからこわくない、とはならないのがこの舞台のすごいところですね。むしろわかっている方がこわいところあるよね。

これはたとえばこの劇場中継とかをテレビで観たりしても、まったくこのこわさっていうのは伝わってこないだろうし、なによりあの仄暗い照明っていうのは映像にしたらまったく映えないんではないかと思う。人間の目がいかに繊細な光をとらえていて、かついかに光に操られるかというのを実体験できる場でもありますね。

この物語の真の恐怖感というのは、たとえばフレドリック・ブラウンの「うしろを見るな」のような、最後の最後にその悪い夢の連鎖が続いているということがわかるというところと、そこに観客自身も巻き込まれる…というところにあると思うので、そういう意味でもやはり劇場で見るべき作品だよなーと思います。

岡田将生くんは二度目の舞台とは思えないほど達者で、初舞台も拝見しましたがあの時もすごい安定感あったものなー。なにより滑舌と声がすごくいい。間近で見ると身体がほんとに細くてトラッドスーツの中で身体が泳ぎかねない感じ。勝村さんは、斎藤晴彦さんとはやっぱり違う持ち味で、しかし気の弱い中年男の佇まいをちゃんと見せつつ、次第次第に物語にはまっていくさまが見事でした。いやこれは、好きな役者の技量を満喫できるという点でたまらん芝居でもありますね。たどたどしく覚束ない芝居が、クッとギアが入って一気に物語の中に連れていくという技が何度も堪能できるわけですから。

芝居を見ていて思いだしたことのひとつは、スパイダーの存在。最初にこの舞台を観た時、みんなスパイダーを「どんな犬」と思い浮かべてるのかなって思ったんですよね*1。で、私は(その時の感想にも書きましたが)ビーグル犬。芝居の中でスパイダーが出てくる場面になったとき、あっ犬はほんとには出てこないんだっけ?って思ったほど、自分の中で「スパイダー」を完全に思い描いてたんだなあと。人間の想像力ってないものもあるようにしちゃうんだからやっぱりすごい。

*1:どこかに(原作とか)正解があるかもしれないですが、そういうことではなくて、あの舞台の上に観客それぞれがなにを見ているかという意味で