「八月納涼歌舞伎 第一部」

◆おちくぼ物語
完全にシンデレラであった。原典は作者不詳、10世紀頃に書かれた物語らしい。つまるところこういった物語のフォーマットというのは時と場所を選ばずに自然発生するのだろうか。そう思うとちょっとすごい。なさぬ仲の継母にいじめられる美しい姫、事なかれ主義の父、意地悪なふたりの姉…シンデレラやないか!(2回目)

拝見した日は七之助さんの声の調子がよくなかったみたいで、声の出し方をいろいろ試行錯誤しつつでちょっとハラハラしたりしましたが、しかし「…知らない。」とかの可愛さはこれが!女子力の!具現化!みたいな威力があってすごかったです。あと私は隼人さんの「…蚊が…」の威力に笑いをこらえるので必死でした。まさか自分の顔に触れての「蚊が」だったとは予測できませんでした(姫の顔にとまった蚊をたたいてあげるのかと予想してた)。

左近少将が通ってきているということを知って継母激怒、一計を案じ姫を陥れようとするが実は姫には酒乱の気が…という展開、最後はもちろんハッピーエンドですが、あの姉妹と継母に酔った勢いで手痛い一撃でもくらわすのかと思いきや、そういう倍返しエピソードはなかったので個人的にはちょい残念。

阿漕の新悟くんよかったな。「うちのお姫さまになんてことを…!」からの手のひら返しとか最高にキュートでした。

◆棒しばり
演目が発表になったときから、これは見たいと思っておりました。2年前の夏には、三津五郎さんと勘九郎さんの「棒しばり」を歌舞伎座で見たのだ。そして今年の夏は、巳之助さんと勘九郎さんが「棒しばり」を踊る。

2年前はどこかに勘三郎さんの面影を追っていたところがあったし、今回は三津五郎さんの面影を追ってしまうところがなかったとはいえない。でもそれ以上に楽しかった。勘九郎さんの踊りはやっぱりどこか私にとって特別なんだなあということを実感した。太郎冠者も次郎冠者もおかしくて、かわいくて、あははと笑ってたのしく見られたことがうれしかった。最後に不思議と涙が出たけれど、悲しいわけじゃなかった。

勘九郎さんも巳之助さんも、これからどんどんこうやっていろんな演目を自分たちの身に入れていくのだろうなあ。またいつかこうしてふたりで踊る機会があるだろうか。その時にはこの夏のことを思い出したりするだろうか、そんなことを思ったりしました。