「ロミオとジュリエット」子供のためのシェイクスピア

このカンパニーの確か第1回公演がロミジュリでしたよね。私は拝見していませんが、でもそのときは演出も加納幸和さんだったし、おそらくまったくちがった作品だったんではないかと思います。

中盤までは、というか、ほんとに最後の場面までは、いろいろとつまんだり、このカンパニーならではの小ネタを入れ込んできていたりしてはいるものの、まあまあ王道のロミジュリだなあという感じで見ていました。普段なら上演時間が2時間でも10分程度の休憩を入れるのが恒例ですが、今回2時間通しだったのは、出会ってからその死までがたった5日間という、突風のような恋人達の姿を一気に描ききりたかったからなのかな。

しかし、最後の最後でしてやられたというかなんというか、こうくるか…!と目を瞠りましたし、ロミジュリの結末、つまりもはや(実際にその作品を観たことはなくても)誰もが知っているあのラストがこんな風に見えてくるとは、いやー参りましたね。

ロレンス神父がジュリエットに例の「仮死状態になる薬」を手渡す場面で、ためしにその薬をあのシェイクスピア人形に飲ませてみて、さらにテレビの料理番組よろしく「飲んでから42時間後がこちらになります」的なネタがあり、しかもその42時間後が起こしてもなかなか起きないということで笑いにもなり、多分誰もが思う「その薬ほんと大丈夫なの?」的な観客の心情を揶揄しているのかと思ったんですけど、これがラストでものすごく効いてくるとは夢にも思いませんでした。

ロレンス神父の手紙はロミオに届かず、霊廟を訪れたロミオはパリスを倒し、ジュリエットの亡骸を抱いて、毒をあおって死ぬ。ここまではいつもの通り。違うのは、ここでジュリエットが「目覚めない」ことなんです。先ほどの小ネタのようなシーンがあるから、観客は42時間というのがあやしいだけなのか、それともジュリエットは本当にこのまま目覚めないのかわからない。ロレンス神父が駆けつけ、その後モンタギュー・キャピュレット両家と大公も登場となるが、まだジュリエットは目覚めない。神父はジュリエットが生きていることを主張するがとりあってもらえず、頭がいかれたと思われて引きずり出される(台詞が原典にないのは実はここだけで、あとは順番を入れ替えてあるだけというのもうまい)。両家はこの諍いが生んだ悲劇を嘆き、手を取り合って退場する…

だが、ジュリエットは目覚めない。
霊廟の中、誰も訪れることのない静寂、そこでようやくゆっくりとジュリエットが目覚める。4幕3場の薬を呷るシーンの前に、霊廟の中でひとり目覚める恐怖をジュリエットが考える台詞があるが、まさにそれが現実となる。彼女は傍らに横たわるロミオに気がつく、毒薬の瓶を呷る、ひどい、すっかり飲み干してしまうなんて…そこで黒衣の人物が死を唆すように短剣を浮かび上がらせる。おいで、この胸がおまえの鞘。彼女はうしろを振り返る、黒衣の向こう、青白い顔をしたロミオが、ジュリエットを手招きする…

こええええ!!!なんだ!!!!ホラーか!!!!ぞっとした!ぞっとしたよ!!!ロミジュリは時間のずれの悲劇、でもあるわけだけど(手紙がロミオに先に届いていれば、ジュリエットがもうすこし早く目覚めていれば、的な)その時間のずれを逆手にとってというか、ひとつ場面の駒をずらすだけでこんな違う貌になるのかと思いましたし、それをさらっとやってのけるところがさすがだなと唸らされました。

次回公演は「オセロー」!これも99年に上演されたときの公演は見逃しているので、楽しみです!