「あらしのよるに」

これ、原作は絵本なんですよね。私未読なんですが、でも評判だけは漏れ聞こえていて、異種交流譚というか、オオカミとヤギという、一見相容れない、捕食者と被捕食者がふとしたことをきっかけに友情を深める話…っていうざっくりしたところだけ認識してたんですが、いやいやいや、これ、すごいね。観終わったあと、どの程度原作にあるエピソードなんだろ?と思ったら、ほぼ原作にあるエピソードだったよ!マジか!なにがすごいって、私はこの物語を「うつくしい友情!」とか「わかりあうってだいじ!」みたいな感想よりも

公式最大手ってこういうこと…?

みたいな、心に横の縞が入りまくった感想から抜け出せなかったってことです。児童文学こええわ…

あらしのよるに真っ暗な小屋のなかで、雷をこわがって雨宿りしていたオオカミのがぶとヤギのめいは、お互いの正体も知らぬうちに友情を抱くわけですが、これもうちょっと正体わからないまま引っ張るのかと思ったらもう次の場面で身バレすんですね。そこからの、食べるの?ぼく食べるの?なめいと、食べたいよう、でもともだち食べるのいくない…ながぶのやりとり、とくにがぶと浄瑠璃の掛け合いとかはすごーく楽しくて面白い(どっかんどっかんウケていたよ!)。

原作のエピソードをほぼそのまま盛り込みつつ、けれど歌舞伎の約束事なんかはかなりしっかり盛り込んで作っているのがすごいなと思いました。姫役敵役の配置、敵役が姫やめい達をつけ狙う因縁、主たる登場人物が打ち揃ってのだんまり、と歌舞伎らしさも存分に味わわせてくれる。そういった楽しみもありつつ、物語の真ん中にあるのはがぶとめいのふたりなので、小さいお子さんにもついていきやすい筋書きなんじゃないかと思います。

それにしても、特に後半、がぶとめいの逃避行になってからの展開がなんかもう想像の斜め上すぎて、めいに嫌われたくない一心でめいの前では食事ができない(肉食だとバレたくない)がぶ、がぶが獣を食べていることを感じとっていてそれでも一緒にいるほうを選ぶめい、極めつけはふたりが雪崩に巻き込まれ、そのショックでがぶが記憶を失いめいに襲いかかろうとする…っていう、あれ、こういう場面ウィンターソルジャーにあったよね…と私が思っても誰も責めないでいただきたい(いやだってほんとそっくりですよ、めいの言葉でがぶの手が止まるとことか)。そしてラストはマジもんのキャッキャウフフ退場ですよ…概念としてのキャッキャウフフではなく、リアル100%のキャッキャウフフ。すごい。児童文学すごいし歌舞伎すごい。

敵役だったぎろの月乃助さんよかったなー、あの衣装かっこいい!よね!最後は首飾りからことが露見する…っていう展開もよく考えられているなーと思ったなあ。松也さんのめいはもちろんかわいいのだが、なんかド天然ドジっ子キャラを見ているようでこの小悪魔め!と思ったり思わなかったり。獅童さんはたぶんこのがぶという役にひとかたならぬ思い入れがあるんだろうなと思わせる、その心情も含めてすっかり身に入れた芝居の完成度で舞台をぐいぐい引っ張っていてさすがでした。