「語る室」イキウメ

「常識でははかりしれないこと」に出遭ってしまった時、人間はどうするのか。毎回SF(すこし 不思議)な作品を手がけるイキウメ、今回は神隠しでもあり、一方通行のタイムトラベルでもあり。

先だって上演されていた「カタルシツ」は残念ながら未見なんですけども、この表題から受けたイメージとは少し異なる印象の作品だったかなと思います。「カタルシツ」のほうはどうだったんかなー。観ながら、こういう見せ方、構成をするということは、作中人物にとっての謎は解かれないままなんだろうなと思いましたし、実際そういう着地点でした。記憶のプールにアクセスできるという佐久間ただひとりが、ぼんやりと「真実」らしきものを見、そして観客である私たちにそう語りかける。

私はどうもこういうところではベタな展開を望んでしまうタチらしく、何か少しでも、残された彼らに、とくに息子を捜す母に、何かのよすがのようなものを手渡してはくれないだろうかと思ってしまうので、そういった展開には触れずに終幕する今作はすがすがしくもあり、もどかしくもありでした。とはいえ、あの束の間のドライブの時点で、観客は皆真相らしきものに、つまりはこれが彼女がきっと夢見たこともあるであろう、成長した息子とのひとときであることに気がついており、彼女の代わりにその時間の愛しさを記憶に刻み込んだのだと思えば、それはそれで美しい時間であったようにも思います。

でもまあせめて、ガルシアは元の時間に戻してあげたかったな。彼がと言うより、彼の母親のことを思うとあまりにもやるせない!

なにかを「喪った」3人のバーベキュー大会、5年という月日について「なにも変わらない」「時間が解決するなんてことはない」と喪失を喪失のままで抱えて生きていく人間のつよさをさりげなく言葉にするあたり、うまいですよね。あと、夕霧にまつわる現象の解説を聞いた佐久間の「それを知らなければ、きっと途轍もない不思議なことが起こったと思っただろうに」という台詞も印象的。理屈を知ればそうかと思うことも、知らなければそれは「不思議」の世界への入り口になる。前川さんらしい台詞だなあと思いました。