「ラインの向こう」劇団チョコレートケーキwithバンダ・ラ・コンチャン

劇団チョコレートケーキと近藤芳正さん率いるユニット「バンダ・ラ・コンチャン」がタッグを組んだ公演。ラインとは国境のことであり、もし日本が南北に分断された国家だったら、という架空の設定が物語の出発点になっている。しかし、これを見て「架空のお話」という視点で見る人はほとんどいないのではないだろうか。今まさに、ある日突然引かれた見えないラインのあちらとこちらに分断された世界があり、そして今自分たちのいるところが「そうでない」のは本当にすこしの出来事の積み重ねの結果にすぎない。

目に見えないラインがあるとはいえ、うらさびれた寒村の、ひとも殆ど来ないような山の中では、人の心にまでラインは引かれていない。とある一家はラインのあちらとこちらに運悪しく分断されてしまうが、そのラインを物理的に越えることは厭わない。田植えの季節、収穫の季節には家族の力が必要だ。

南と北の家族の中にそれぞれ1人づつ、「思想」というものにとりこまれたものがおり、なによりもまず壁は人の心にできて、それが国境というラインをどんどんうずたかく、ぶあつくしてしまうのだということがよくわかる。戦争が始まったという出来事を境に、それぞれの家族はお互いラインの向こうに「得体のしれなさ」を感じてしまい、それが国境というラインをいっそう強固なものにしてしまう。

南北のいずれにもほとんどノンポリといっていいような国境を守備する兵士がいて、この描き方がすごくよかったですね。最後の大騒動は、かれらふたりの演出(自分たちの身を守り、かつ家族の結束をよみがえらせる)なんだろうと思うのだけど、それを言葉にしてしまわないのもいい(なのでここは観客が勝手に想像するだけ)。

東京公演のハコと較べて地方の公共ホールというのは間口も高さも、もちろん客席の広さも相当に勝手が違ったのではないかと思いますが、近藤さんや戸田恵子さん、高田聖子さん、寺十吾さんなど酸いも甘いも噛み分けたベテランはそのあたりの対応がさすがに見事でした。ちゃんと「大きめのリボン」をかけた芝居になってる。戸田さん高田さんの女同士の気っ風のよさもよかったし、寺十吾さんの佇まいとかほんとすばらしい。ナチュラルボーンそういう人に見えてしまう。

個人的にはナレーションを割と多用した演出になっていたのが意外でもあり残念でもありといったところでした。とはいえ代替の処理を思いついているわけでもないのだが。というか、私はナレーションというのをよっぽどうまく使ってくれないとそれだけで点が辛くなる傾向がある…

しかし、パラドックス定数といい、チョコレートケーキといい、近藤芳正さんは若い劇団をほんとよく見ているし、見ているだけでなくそこに飛び込むっていうのがすごいなって思います。チョコレートケーキは今回初の関西公演だったそうで、近藤さんと組むことでこういう風に世界が広がるというのはすばらしい。さらに秋には「治天ノ君」を再演、地方公演も予定されているとのこと。これは観たいと思っていたのでとても楽しみです!