「8月の家族たち」

「三姉妹ものに目がない」ケラさんが「他人の戯曲で演出してみたいもの」として白羽の矢を立てたのがこの作品。映画は日本でも公開されていましたが、未見です。映画版ではメリル・ストリープがやった強烈な母親役を麻実れいさんが、というのでこーれは見たいなと。

翻訳物で2回の休憩を挟んでトータル3時間超、どうやったって「長ぇな」と思うところですが2幕、3幕と進むにつれてまったく時間が気にならなくなってくるのがすごい。2幕の体感なんてほんとあっという間だった。細かいシーンの積み重ねで、ことによってはぶつ切りにも見えてきそうなものなのにそういうところがまったくないのがすごい。ケラさんはほんとに会話のほんの小さなところにまで手が行き届いた演出をするよなあと思いました。

どの登場人物にも等しく悲劇といえそうなものと、業といえそうなものが降りかかるのが面白かったです。アイビーは一見おとなしい、自分を殺して相手に尽くすタイプのように見えるけれど、その実「ここで母を捨てても後悔なんてしない、家族の絆なんてものに重きを置いたりしない、偶然遺伝子の配列が似通っただけの他人」と言い放つクールさがある。しかし、彼女を打ちのめすのはまさにその「遺伝子」のことであったり…。

個人的にはつらい子供時代をすごしたというヴァイオレットが、夫の失踪を知ってまず銀行の貸金庫の元に走り、その後にモーテルに電話をかけたという最後に明かされる真実の強烈さが印象的です。そうやって生きてきた、そうやってしか生きてくることができなかったヴァイオレットの、これがまさに業か、という。

親族全員が顔を揃えての2幕のディナーのシーンは圧巻ですね。あそこで舞台がうごき、まさに円卓のように全員の顔が見られる演出になってるのさすがだなと思いました。麻実れいさん演じるヴァイオレットの苛烈さを傲然と受け止める秋山菜津子さんのバーバラ!ハブ対マングースもかくや、な食うか食われるかの言葉の応酬、見応えありすぎるなんてもんじゃない。あそこに飄々と割って入れる木場さんもすごい。木場さんのチャーリーが最後まで息子に優しくて、それにほんと慰められましたよ…!

生瀬さんの演じたビル、最初はただの気の弱い夫かと思いきや…っていう展開(でも、対話しようとする意思があるのがすごいよ)も面白かったし、さとしさんの演じたスティーブは、わー!いちばん引っかかったらあかんやつやー!と思えど、ジーンとの暗闇のささやき声でのシーンはエロさとおかしさが同居しててよかった(おっぱい見せなくてもいいから出して、っていうとこ最高じゃないですか!)

しかしほんと豪華キャストですね。冒頭、このいい声…もしかして村井さん!?と思ったらホントに村井国夫さんで(キャストをよく見ずにチケット勝ってる人の典型)、なんつー贅沢な使い方…!って思いましたもの。その中にあって硬軟自在というか、王者としての風格というか、麻実れいさんの放つ存在感に改めて感じ入りましたし、それに食らいつく秋山菜津子さんの凄みにも感じ入りました。