「コクーン歌舞伎第十五弾 四谷怪談」

コクーン歌舞伎にとって四谷怪談というのはかなり縁のある演目ではないかと思います。今回は2006年「南番」「北番」で上演したバ−ジョンから一歩踏み込んで、お袖と直助権兵衛によりスポットを当てた構成。

黒子を黒スーツのサラリーマンが務めたのをはじめ、いろんな時代の衣装を身に纏ったキャストが入り混じったり、ストップモーションの演出もふくめて、かなりアバンギャルドな、串田さん色の強い演出になっていたなーと思います。しかし、あの「四谷怪談といえばこれ」、という伊右衛門浪宅の場がコアにある一幕は、どんなアバンギャルドな演出があっても場面としての力がものすごくて、元の味がしっかりしてるからどんなソースでも合う!みたいな感覚を味わいました。セットを縦横無尽に動かすことで展開がスピーディになっていたところ、その縦横無尽さによって梅とお岩を物理的に対比してみせたりするところはすごく好きでした。

二幕はよりお袖と直助にスポットがあたるわけだけれど、もちろん場面場面は面白く観られるのだが、歌舞伎としての芝居とこの演出のテイストががっつりかみあっている、という感じには見られなかったのが残念なところではありました。なんというか、場面としての力が弱く、趣向の方に集中が行きがちになってしまい、物語にぐーっとのめりこむ感覚がなかなか訪れない感じ。

勘九郎さんの直助権兵衛も、出番の少ない一幕の方が鮮烈な印象を残していたのがおもしろい。せっかくなので七之助さんのお袖ともっとこう、業の深いやりとりを見たかったなという気もします。お岩と与茂七をやった扇雀さんよかったなー。笹野さんの伊藤喜兵衛、軽妙洒脱でこの座組でもっとも自由に舞台の上で息をしてらっしゃる感があるのがすばらしかったです。

それにしても今回のパンフ、キャストそれぞれの「サラリーマンな日常」のショットになっていて、これリーマン好きには宝の山やで…!と思ったとか思わなかったとか。個人的なヒットは大森さんのおタバコショットです。眼福!