「猿若祭二月大歌舞伎 夜の部」

「門出二人桃太郎」。勘九郎さんとこのご子息が勘九郎さん・七之助さんと同じように桃太郎で勘太郎・長三郎として初舞台。んもうね、歌舞伎座全体がお祝いムードというか、板の上も客席も、これから長い長い役者の道を延々と歩くであろうふたりに大丈夫だよ、元気に行っておいで、って背中をそっと押してあげるような優しい空間でした。あーー勘三郎さんに、見せたかった!ってたぶんこれも誰もが思ってらっしゃると思うけど、でもきっとどこかからか見てらっしゃったよね…。二人を見つめる勘九郎さんの顔がねえ、もう、すんごい顔してた。あんな顔見たことない。そしてふたりの一挙手一投足をまさに笑顔がこぼれる、という感じで見守っていらっしゃった芝翫さんや菊五郎さんや時蔵さんのお顔にもぐっときました。自ら買って出たという犬彦の染五郎さん、雉彦の菊之助さん、猿彦の松緑さんの気合の入った拵えもすんごく良い!このお三方がこうして名を連ねてくださるなんて、なんとありがたいのかと勝手に身内気分。松緑さんがてこてこ歩く長三郎くんを終始フォローするような視線で見守ってくださっていたの印象深いです。

私が勘九郎さんのことを知ったときは、当然かれはまだ勘太郎だったわけで、でも年月が経って、勘九郎を襲名して、そしてまた歌舞伎座勘太郎の名前が戻ってくる…不思議な感じです。勘太郎くん、長三郎くんのほうを時々気にしながらも、ほんとにぐーっと必死に手を伸ばし、声を出し、板の上でちゃんとあろうとする姿にほんときゅんきゅんしたし、たぶんよくわかんないながらもそれについていく長三郎くんにもきゅんきゅんしました。本当に幸せな一幕でした。

「梅ごよみ」。勘九郎さんが久しぶりにがっつり女形!うれしいですねえ。丹次郎という二枚目をめぐって深川芸者の仇吉と米八が火花を散らす、という中にお家騒動が絡んでくるんですが、仇吉が菊之助さん、米八が勘九郎さん、丹次郎が染五郎さんという顔合わせ。いやーよかった。それぞれがそれぞれにはまり役。染さま、意外な役が来たと思ったって筋書で仰ってましたけど、いやこれすごくニンですよ。丹次郎は確かにだめな男なんだけど、でもモテるだけの何かがあるんですよ。顔だけじゃない。誠はあるけど実はないというか、いやそれだめじゃんってなるんだけど、でもそこを許せる人間の愛嬌というか、そういうのが染さまにはちゃんとある。

でもって仇吉の菊之助さんねー!ちょっと顔がいいからって、と米吉に言われた時の「あたしがいいのは顔だけじゃない」って返しの鋭さ最高でした。あの美貌で土下座して謝れとか言われるとその酷薄ぶりにぞくぞくきちゃう。自分の中のM心が目覚めるといいますか…。勘九郎さん、ちょっと声が荒れてるなってとこは残念だったんですけど、深川芸者のキレのある居住まい佇まい、そして台詞の絶妙な間(橋がたくさんあるからね、のとこ素晴らしいですよね)、そしてほんと虐げられて輝くのよねこの子…(子とか言うな)。勘九郎さんと菊之助さんのコンビ、すうううううううんんんんごく好き!!!!なので!!!!(強調)、これからもいっぱい共演してほしいです!!(言霊!)