「皆、シンデレラがやりたい。」

「シンデレラになりたい」ではない。シンデレラ「が」「やりたい」。このタイトルが、まずうまい。

めちゃくちゃ面白かったです!物語は世間から「いい年をした」と言われてしまう年齢の女性3人が、アイドルの追っかけをきっかけにいわゆるヲタ友として交流を深めているけれど、そこにはそれぞれの思惑も抱えている。そこに降ってわく、女性がらみの「炎上」案件。果たして、アイドルへの想いは!ヲタ友との友情は!転がる先が見えないにもほどがある、嗚呼、これぞヲタライフ!

実際問題、まったくもって「他人ごとではない」描写の連打であるわけで、その前日にも観劇クラスタの友人たちと集まってああでもないこうでもないとヲタ話に花を咲かせたわけで、あたしが夢中なのはアイドルじゃないから、追っかけとかしてないから、作品が好きなだけだから、なーんて口をぬぐっていられないことはさすがに百も承知です。まさに同じ穴の貉。自分の力ではどうにもできないものに人生の楽しみを託してしまっている族ですよ。

いや、あの3人のうち2人が残り1人の「悪口」で結束してしまう場面、いやな場面だけど、わかるし、実際あるし、ヲタ友はヲタ友で狭い世界だからこそ煮詰まって焦げると大変なことになるっていうのは身近なところでいくつも見てきましたもん。伊達に歳食ってないっすもん。でもそこをいやったらしくなく、毒は消さずに、でもポップに見せきっている脚本すごいなと思いました。全編においてそのポップさ、深層がありながらも沈み切らずに駆け抜ける筆致がすごく気持ちよかった。

そしてその気持ちよさを支えているのはなにかというと、猫背椿さん、高田聖子さん、新谷真弓さんという、大人計画・新感線・ナイロンを背負ってきた看板女優の皆様の手腕なんですよね。まさに凄腕。ほんと、冒頭の1シーンを除いて、3人だけで展開する場面が相当長く続くんですが、この時間が至福の一語に尽きる。演劇の愉悦を文字通り浴びるように味わっているという感じ。3人の隙のなさ、ナチュラルで、かつ緻密な芝居立て、うまい役者は自分が舞台を引っ張る時にはちゃんとバトンを握り、かつそれを次の牽引者に渡すことができるものですが、その3人のいわば芝居のバトンパスがほんとに見事すぎた。もう何にも事件起こらなくてもいい、このまま3人がずーっと喋ってるだけでもいいとか思わせるもんね!

ヲタ友たちの前に現れたのはアイドルの恋人とそのマネージャーで、誹謗中傷をSNSに書き込んだ彼女らの位置情報表示からその場所に乗り込んでくるんだけど、その恋人は意外なことを言い出す。あなたたちがお金を使ってるアイドルは実は最低の人間なんですよ、あんなやつにお金を使うのはもうやめたほうがいいですよ…。

さて、こんなとき、あなたならどうするだろうか?そんな人(女の子を妊娠させたうえ半分ヒモ生活をしていながら自分がホストクラブで稼いだ金は風俗につぎ込むなかなかのチャー!シュー!メーン)とは知らなかった、がっかりだ、今まで売れない路上アイドルから支えてきたのに、金返せ、もうお前の顔も見たくない、となるだろうか?そこまでではなくても、折角応援してきたのに、そんな人だったなんてがっかりだ、と「せっかく」「〜のに」の係り結びの法則でそのアイドルから距離を置くだろうか?はたまた、その事実を飲み込んで、または見なかったことにして、どうにか心の折り合いをつけて、この楽しみを離すまいとするだろうか?

ヲタ友3人にはそれぞれ明確な生活格差が描かれており、それにまつわる毒もふんだんに味わえるのだが、その中でもっともつましい生活をし、節約に節約を重ねてヲタ生活を送っている女性はこういう。「あなたにはたった1万円でも、私には11時間パートしないともらえない1万円なんです。そういう1万円をかけてきた気持ちは、だから誰よりも強いのだ」と。

見たくない事実にぶち当たった時どうするか。個人的な考えだが、それはもう、個人の資質によって違うだろうという気がする。かけてきたお金は要素ではあるが、分水嶺にはならない。そして、腹を立てても、逃げても、踏みとどまっても、ヲタとして「正しい」解などない。だって私たちは所詮、自分の力ではどうにもできないものに人生の楽しみを託してしまった族なんだから。どうにもできないものにぶち当たった時の身の処し方に正解なんてあってたまるもんですか。そう思います。

芝居の最中で出てくる「笑い」という標的を、ひとつ残らずワンショットワンキルで撃ち落としていく凄腕スナイパーのごとしだった猫背さん。ほんと、すごい。あそこまで百発百中かよ!と唸らせる。ほーら今日もかみ合わない!でメモをぶん投げるところ最高でした。もはやお手の物ともいうべきほわほわ不思議少女のテイでいながら、だれよりも黒い部分を醸し出してくる新谷さんの硬軟自在さも頼もしかったなー。聖子さん、前半は受けに回ることが多い役なんだけど、こっちはその爆発力を知っているだけに、後半のくるぞ…くるぞ…キターーーー!感がすごい。あの「おせっかいですよね」からの場を圧倒する畳みかけ、見事でした。3人で完全に場の出来上がったところに入っていく小沢道成くんと新垣里沙さんはかなりのプレッシャーだったと思うけど、暖まった空気をうまーく掴んで芝居を運んでいてよかったです。小沢くんの振り回されキャラかわいい。

作中で言われる「シンデレラ」とは、彼女らが追いかけるアイドルがバイトをするホストクラブで、シャンパンタワーを頼むとホストから呼ばれる呼称のこと。シンデレラと言われ、ちやほやされ、いちばん高いところに立つ。皆、シンデレラが、やりたい。最後の怒涛の展開まで上演時間1時間45分、楽しく面白く、そして深く胸に刺さる、文句なしの一本でした!