「不信〜彼女が嘘をつく理由」

三谷さん新作。キャストに常連の段田さん戸田さんに加え、二度目のタッグの優香ちゃん、そして大河ドラマで初めて組んだ栗原英雄さんの4人芝居。

とある建売に引っ越してきた夫婦が隣宅に挨拶に行く場面から物語は始まる。セットの両端に家具やコート掛けがあり、舞台上には5脚の動く椅子。客席はその舞台を挟み込む形で設えられている。

演出面でひとつ思ったことは、こうした「見えない部分」がどうしても出てくる舞台構造でサスペンスめいたものを見せるには、三谷さんの演出は親切すぎるかなという点。見えない側には見えない、ということが、見えている側には見えている、ということそれ自体がドラマになっていくのが理想と思いますが、そういう肝の表情はどっちからも見えるか、どっちにも見せるか、そういう気づかいがなされていて、せっかくの死角ありきの構造なのになーとは思いました。

物語的に、なんとなく落としどころとして「不作為の罪」みたいなものが浮かび上がってくるんだけど、全体を覆うトーンとしてはちょっと弱い。不作為というか、罪にならない罪というか…しかし、だったらもっと作為を前面に押し出したうえでの展開のほうが効果あったんじゃないかなあという気がします。いずれにしてもサスペンスとして見せるには緊迫感に欠け、ミステリとして見るには謎に欠けるという感じ。あのオチにするなら優香ちゃん演じる妻は最後まで貞淑一途の妻で見せきったほうがよかったんじゃないかなあ(あの展開、どうやっても読めてしまうものね…)。

段田さんはもちろん安定のうまさ。戸田さんも優香ちゃんも悪くないんだけど、これキャスティング逆でもよかったかもなとは思いました。栗原さん、舞台では初見ですが実際に聞いても落ち着きのあるいい声爆弾で堪能。

せっかくのサスペンスをやるなら、もうひとつふたつきれいに伏線の張られたドラマで見たかったな!というのが本音なところです。