「HEDWIG AND ANGRY INCH SPECIAL SHOW」

  • シアターオーブ 1階12列42番


あの!ジョン・キャメロン・ミッチェルご本人が来日してヘドウィグの公演をやるー!というニュースが飛び込んできたときには浮足が立つどころじゃなく完全に泳いでるシマツでした(っていうか今年そんなニュースばっかりや!)。いやー生きてりゃいいことあるもんだ!

えーとこの先はいろいろ今回の公演の事情を勝手に斟酌したうえで書いているのをお含みおきいただきたいのだけど、まずスペシャルショーという副題がついていること、JCM自身の監督した映画のプロモーションを兼ねた来日であることなどを考えて、なんとなくガラコンサート的な?色合いの強いものになるのかなーというのを個人的には予想しておりました。なのでJCMが登場シーンでがっつりあのヘドのウィッグとメイクでドバーン!と登場したときの「ほ、ほ、ほんものや〜〜〜!!!」な感動たるやなかった!あのTEAR ME DOWNだけでチケット代を払った甲斐があった…という気すらしました。

ヘドウィグの日本での公演は三上博史さん、山本耕史さん、森山未來さんのバージョンをそれぞれ見ていますが、基本的にはそのミュージカルにおける構成(ヘドウィグたちのライヴのすぐ裏でトミーのライヴが行われているという設定)にのっとったものでした。語りの部分の字幕はどうするのかと思ったら、イツァーク役の中村中さんがいわば「もうひとりのヘドウィグ」として日本語で語っていくというスタイル。なるほどなー。それがわかった瞬間にいろいろ腑に落ちたというか、だからこそジョン・キャメロン・ミッチェルを呼んでこの短期間での公演ができるんだなという得心がいったというか。だって、いくら「オリジナル・ヘドウィグ」とはいえ、バンドもふくめミュージカルをきっちり一本板の上に乗せるってやっぱり大変なことですもん。逆に言えばこの場でそのプレッシャーをひとりで受けなきゃいけない中村中さんは相当に重荷を背負わされたという感じだけど、いやーナイスファイトだったんじゃないでしょうか。彼女が果たした役割はとてつもなく大きいし、そういえば山本耕史くんと組んだときのイツァークが彼女の初舞台だったんじゃなかったっけ?いやはや大したものです。

ミュージカル版そのものの展開を重視すれば、最後にトミーとして現れるところや、イツァークにウィッグをかぶせるシーンの意味合いみたいなものは薄れているといわざるを得ないし、歌は英語詞で歌われるので字幕は出たんだけどこう…ちゃんと「どう見えるか」までの検討がしっかりなされていたとは言い難い見せ方だったこと(映像的な効果がことごとく薄れてしまっており、そこのスタッフワークしっかりー!とは思った)もあり、ひとつのミュージカルとして完成された世界があったかといえば首をかしげざるを得ないですが、しかし、と私は言いたい。このステージには、それを補って余りある魅力があった。それはなにより、ジョン・キャメロン・ミッチェル自身があのヘドウィグの歌を、ヘドウィグの世界で歌うということ。その説得力は、一本のミュージカルとしてではなくても観客を圧倒するものだったと思います。

名曲揃いのヘドウィグの楽曲たちのなかでも、個人的にWIG IN A BOXがめちゃくちゃ大好きで、あの曲なんというか、切なさと、でもその切なさに溺れない歯ぎしりみたいなものを、あくまでもポップに聞かせてくれるところに毎回してやられてるんだけど、ジョンがあのウィッグを取った姿でスツールに座って歌いだした瞬間に、どわわわわと両の目から涙があふれてきてしまって参った。ジョンがあまりにはかなく美しくて、そしてそこで歌われる歌の切なさがたまらなくて、嗚呼もう神様これを聴かせてくれて本当にありがとう!と思いました。

そしてトミーの姿で歌われるMIDNIGHT RADIOの素晴らしさ…And Nona,And Nico,And meと叫ばれるその瞬間の劇場を覆うパワーたるや。正直この楽曲に関しては、ジョンが歌うものとそれ以外、と分けたくなってしまうほどに、彼の魂のかけらが入った楽曲だとしみじみ思います。

作品として見たときには食い足りない部分もあったステージですが、それを補って余りある中村中さんの奮闘とジョン・キャメロン・ミッチェルの存在感に酔わせていただいた夜でした。こういう形でもないかぎり、こうして日本でジョンの歌うヘドウィグを聴けることはなかったと思いますし、そういう機会にめぐまれたことを感謝したいです。