「Gifted/ギフテッド」


マーク・ウェブ監督。今年の春にアメリカで公開されて、小品ながらなかなかの高評価を得ていたという評判が聞こえてきてて、楽しみにしていました。なぜそういう評判が聞こえてきていたかというと主演がクリス・エヴァンスさんだからですよ!

いやー、しみじみ、よかった、おもしろかったです。脚本が自分の好みに合っていた感じがすごくあります。へんに過剰にならない、品のある作品でした。以下ラストの展開まで触れます。

GIFTEDと呼ばれる、幼少期から卓抜した才能を発揮する子供を巡る確執がメインストーリーですが、面白いのはその子供の親が不在であること。どんな難解な数学の問題もわけなく解いてしまうメアリー、そのメアリーを自殺した姉から託されひとりで育てる伯父のフランク、メアリーに英才教育を授けたい祖母のイヴリンが登場しますが、自ら命を絶った姉の意思が最後まで物語のキーを握っている。

フランクとメアリーにはもちろん確かな愛情と絆があるんだけど、それがもうどうやっても揺るがない強固なものなんですー!みたいな感じじゃなくて、お互いがある部分では気を遣い、ある部分では戸惑いながら、うまくやっていこうとしているところがすごくよかった。金曜日の夜だけメアリーと離れた時間を持つルールを作っていることとか、気まずいときの仲直りとか(ベタかもしれないけど、あの誕生の瞬間に立ち会わせるっていう方法がすごい。人間の歓喜って全然関係なくても引っ張られること確かにありますよね。メアリーが「もう一回見ていい?」っていうのがすごくよかった)、メアリーを里親に託した後のフランクの、預かった当初はすぐにでも里子に出すことを考えた、けどいつもなにしかしらしでかすメアリーが楽しくて、興味深くて、ずっと見ていたいと思うようになった、って話をするところも、そういう話ができる誠実さがちゃんと登場人物の魅力に見えてくる。

伯父と姪の暮らしのなかにいる片目の猫がすごくいいスパイスになっていて、物語の展開のうえでも重要な存在だし、カモメにやさしい片目のフレッドの話とかすごくよかったな。あとあの夕焼けのシーンはね、神様ってどこにいるの?っていう問いにああいう答えができるひとだっていうのがフランクのひととなりを表していてすごくよかった。でもってやっぱりクリエヴァさんの筋力…って真顔になっちゃう良いシーン(笑)

イヴリンはおそらく、自身もいっときは将来を嘱望された数学者で、でも結婚して子供を出産したことで人生が変わってしまい(と本人は思っていて)、その生まれた娘に自分以上の天才性を見出したことで娘を通して自己実現をはかる…という親であるわけで、フランクとダイアン(メアリーの母、フランクの姉)は、おそらくあの母親のもとで、決して楽しいとは言えない幼少期を過ごしたことは想像に難くなく、定型的な文言で言ってしまえば、彼らの母イヴリンは「毒親」ということになるのかもしれません。あの裁判所で弁護士に煽られて長広舌をぶってしまう物言いも相当ですしね。でも、フランクはこの母と根底から分かり合える期待はしていないものの、彼女を出来るだけ傷つけたくないとも思っている。それはイヴリンも同じで、彼女にとっておそらくフランクは(ボストン大学で教鞭をとるという社会的地位を得ていたとしても)常に「できの悪い子ども」の方だったんだろうとおもうけれど、フランクを殊更に傷つけたいと思っているわけではない。裁判のあとの一定の距離を保ちながらの会話にもそれが垣間見えて、でもフランクは運転手に「空港へ(さっさと帰れ)」と言い、手出し無用であることについて一歩も引くつもりはないことを知らせる線の引き方を短いシーンできっちり伝えてるところがよかった。

物語の構成上は、イヴリンが悪役?のポジションになるわけだけど、彼女が里親を抱き込むというルール違反をしたことで、フランクは最後の一手を切る。それはイヴリンが喉から手が出るほど欲しかった「とびっきりの栄誉」というやつで、その代わり、自身が目をかけた娘が、その栄誉の元を弟に託した理由を突きつけられるわけです。つまり娘は、ダイアンは、決して自分のこの功績を、おまえの自己顕示欲と名誉欲のエサにはしないという最後通牒を突きつけていたということを。フランクはあのノートを渡さずにこれをいうこともできたけれど、それをしなかったのは「彼女を傷つけたいわけじゃない」からなんでしょうね。あのノートを渡すべからず派の観客もいそうだけど、個人的にはあの最後通牒で報いは受けたって思いますし、何より本当にそれを守り通したかったのなら、自分が意地でもイヴリンより長生きしなきゃだよ…。

真に天性の才能のある子について、ひたすら英才教育を施すべきか、社会性を身に着け「ふつうの」子であることを大事に考えるか、多分正解なんてないんだろうなあと思いながら見ました。そういった教育の機会を与えられなかった!と子供が親をなじる展開だって世の中にはないわけでないでしょうし、普通の子ども時代を送れなかったことを恨むことだってあるだろうし…でも、個人的には、メアリーに数学の才能があってもなくても彼女と一緒にいたいと思ってくれているひとと一緒にいた方がいいのは間違いない気がする。才能より存在を愛してくれるひとがいるってことは大事だよ、ほんとうに。

メアリーを演じたマッケナ・グレイスちゃんちょうかわいかったです。かわいいだけでなくちょっと小悪魔なところも最高でした。あのグ〜ッドモーニンはめちゃくちゃ笑った、あのニヤァ…と口角のあがった顔もよかったなー。気の利いた言い回しのある台詞がおおくて、そういうところも自分のツボだったなと思います。クリエヴァさんはキャップのときももちろん男前だけど、こうして田舎町の片隅に引っ込んでパリッとしないカッコをしていてもふとした瞬間がどちゃくそ男前ですごい…やっぱり原石の輝く力が強い…とかしみじみ思いましたね。あんな伯父さんがほしい(噴き出す本音)。