「ブロウクン・コンソート」パラドックス定数

  • シアター風姿花伝 全席自由
  • 作・演出 野木萌葱

シアター風姿花伝が「プログラミングカンパニー」として年間通じてバックアップするプロジェクト、2018年はパラドックス定数が選出され、「パラドックス定数オーソドックス」として過去の作品を多数再演するシリーズ。野木さんの脚本好きだし、見たいなーと思っていても普段は上演期間がなかなか状況のタイミングと合わず諦めていたので、こういう企画をしてくださるのはうれしい。なんてったって予定が!立てやすい!

どこにでもあるような町工場で職人として働く兄弟。兄には障がいがあって、弟は兄の面倒をみながら生活している。どこにでもあるような話、だけれど、どこか違うのは、彼らがその工場で作っていたのは模造拳銃だったのだ、という筋書き。

町工場の兄弟、やくざの兄弟分ふたり、ベテランと新米の刑事2人組。こういう舞台設定にして、やくざの兄貴分が出所して戻ってきて、新たな仕事の発注をもちかけ、そこに刑事が絡んで…という脚本を、もし映画やドラマでやろうとしたら、十中八九女性の登場人物を絡めてくるだろうと思う。刑事のどっちかが女性とか。兄弟の幼馴染がいるとか。やくざの兄貴分の愛人とか。貧困な発想の連打で申し訳ないが、とにかくこの設定でびた一文女性の匂いをさせない脚本を書いてくる野木さん、好きすぎる。強いていえば、この作品では「拳銃」こそがヒロイン、男性のロマンを体現する存在なんだとおもう。

誰もが振りかざしたくなる道徳の教科書のような倫理観はここには存在せず、いや存在したかもしれないが摩耗しており、みんなどこかのねじが狂っている。ベテラン刑事が言い放つ「ヤクザに人権なんかねえだろ」の台詞通り、警察ですら酸いも甘いも噛み分けすぎてるんだけど、その噛み分けっぷりがどこか一本芯の通ったように思えてくるのが不思議だし、さすがですね。

拳銃とやくざを絡ませているけれど、舞台上での発砲シーンが限られてたり(見えないところでの発砲は結構ある)、スプラッタも極力控えめだったのは野木さんの好みなのかなーと思いました。

あと、出てくる男性が全員どっかダメなんだけど、えっ…ちょっと…かっこいい…と思わせてくれるのがすばらしいですね。智北役の渡辺芳博さんて、お名前どこかで…?と思ったらサードステージの方で、虚構の劇団で見たことあるがな!ってなったけど、むしろそれを思い出すよりジョビの坂田さんに激似では!?って何回もまじまじと顔を見てしまった。抜海役の今里さんもよかったなー。謎の殺し屋永山役の生津さん、初めて拝見したと思うけど、背は高いわ声はいいわ(ハイ承知。って決まり文句のびみょうにいらっとする感じ最高)、兄弟の愛憎の描き方、キレイに収まりそうでおさまらないのがまたいい。初野&筬島の刑事コンビは終盤になるについれちょう輝いてた。みんなかっこいい。すごい。登場人物が決してかっこいいわけではないだけに、すごい。

パラドックス定数は劇団先行のチケットが毎回凝ってて、今回はタイムカードを模したものになってたんだよなー。オリジナルチケット好きとしては萌えるところです!