「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」

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テニス史に残る伝説の名勝負、1980年のウィンブルドン男子シングル決勝のボルグvsマッケンローを題材にした映画。スウェーデンフィンランドデンマークの合作、監督はヤヌス・メッツ

製作陣の顔ぶれから見てもわかるとおり、基本的にはこの決勝にウィンブルドン5連覇がかかっていたビョルン・ボルグに焦点をあてた構成ですが、とはいえマッケンローを無駄に貶めるような書き方はもちろんしておらず、むしろあの当時「究極の孤独」の中にいたボルグを心底から理解できるたったひとりの人物がマッケンローであるというようなスタンス。

わたしはエバートとナブラチロワならナブラチロワを、レンドルとエドベリならレンドルを好きになるタイプでしたので、ボルグとマッケンローのどちらに肩入れしちゃうかというとそれはもうマッケンローなんですが、ボルグが実は「爆発寸前の火山」であり、極度の緊張感のうえでなおあの「アイス・マン」ぶりを崩さなかったことに心揺さぶられましたし、マッケンローもボルグも「自分のすべてを懸けるものはこれしかない」という思い、あのネットをはさんで文字通り命のやりとりをしていたのだということ、そしてそれはあの場に立ったものだけが分かち合えるものなのだということがこの映画を見ているととてもよくわかる。あの空港でのふたり…!いや最高ですよね。最高です。お互いが気がついて磁石のように引き寄せられるところ最高です。「ここはハグだろ?」最高です。

あまりにも有名な名勝負なので、第4セットのタイブレークの結果ももちろん知っているんだけど、それでも思わず手に汗握りますし、ボルグが5連覇を成し遂げることももちろんわかっているんだけど、あのベンチに座っているマッケンローや、ついに満場の観客の拍手で彼が讃えられるシーンはやはりぐっときてしまいました。あれだけ「悪童」と言われたマッケンローだけれど、このボルグとの名勝負のあとも数々の伝説を打ち立てていくんだな…と思うと、どこか行き場を失ったような顔をしている彼に声をかけてあげたくなったりして。

ピーター・フレミングジミー・コナーズも出てきて、フレミングとマッケンロー(ダブルスの名コンビですよね)のやりとりもよかったな。コナーズめっちゃいやなやつそうでコナーズ嫌いの私(レンドル贔屓なんだから、そりゃコナーズは嫌いだろうっていう)はなんとなく溜飲が下がりました。小さい人間ですいません。ファミリーボックスで試合中にタバコ喫っちゃうのとか、時代だな~という感じですよね。

スヴェリル・グドナソンのボルグ、ほんっとうにそっくりで実際の映像と見比べても遜色ないのでは感。マッケンローを演じたのはシャイア・ラブーフで、ゴシップが先行しがちなイメージしかなかったんだけど、逆に言うとそれでも干されない理由がわかった気がします。マッケンローに別に似てるわけじゃないのに、彼にしか見えないという瞬間が何度もあった。すごいなあ。

エンドロールに流れる実際のふたりの「その後」の映像もふくめて、見終わった後とても清々しい気持ちになった一本でした。