「芸術祭十月大歌舞伎 夜の部」

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十八世中村勘三郎七回忌の追善興行で、現在大河ドラマ撮影中で舞台をちょっこしお休み中の勘九郎さん七之助さんを中心に、豪華な顔ぶれが揃いました。

「宮島のだんまり」。今回、イヤホンガイドで幕間に勘三郎さんの襲名時のインタビューが流れるというので借りてみたんですけど(普段使わない)、この演目は登場人物多いというしイヤホンガイド聞いてみよ♪と思って使ってみたらすごくおもしろかった。というか懇切丁寧でかゆいところにめっちゃ手が届いた。今上手から出てきたのが誰で演じてるのは誰ですよまでもれなく教えてくれるし。すごいな!今度からもっと借りてみようと思いました。ただ「演劇は見ると聞くとじゃ聞く方」の人間なので(手塚とおるさんの名言思い出しますね*1)、台詞があるとどうしても片耳塞がれるのに抵抗感じてしまうのだった。
扇雀さんの最後の引っ込み、上半身と下半身で違う動きっていやもう歌舞伎自由だな!とその発想の豊かさとそれを実現する役者の技量に感服仕りました。舞台面にずらっと並んだときの絵になる感、楽しかったです。

「道行初音旅」または「吉野山」(両方書いておかないとこの先自分のブログ検索するときに困るんですよ)(知らんがな)。よくかかる演目だし、私も結構見ている…ということに今回改めて気がついたわけですけど(勘三郎さんのも襲名の時に拝見してた)、「川連法眼館」と連続でかかることも多くて、そうすると四の切の方に感想がひっぱられがちっていうあるある。いやしかし、今回の吉野山ちょっとびっくりした。何にびっくりしたって、あれ、この演目、こんなどエロい話でしたっけ…?ってなった。いやごめん、そういう話じゃないだろムキー!ってなってる方にはごめん。私もこれまで義経を思うふたりが今はここにいない主をおもってお互いを思いやる…みたいな美しい主従の話だねってときめいていた。で実際そういうふうに上演されてる!されてるんだけど、でもいきなり「恋と忠義はどちらが重い」なんてフックかけてくるのすごない?いやふたりが義経を思う気持ちに軽重はないよって話なんだけど、そうともとれるが、そうじゃないともとれるやん。しかもあの女雛男雛のとこ、勘九郎さんがこう、目を伏せて近づいてそっと横に立つ…そして美しくかわいらしい玉さまの静御前…ギャーーー!!!う、うまれる!!なにかが!!ってなっても仕方なかろうもん。いや勘九郎さんマジでお前の伏し目がちなそれ…ほんとアレだから…。

軍物語の勘九郎さんはね、もう、そうそう知ってたお前ほんとこういうのやらせると天下一の男前、と思いながらあの指先、足先、表情、なめるように見たので満足です。舐めるように見すぎてもうちょっと玉さまの方も見たかったという贅沢な悩み。お声もすっきりとしたお声がずいぶん戻ってきててそれもうれしかったな。早見藤太の巳之助さんも軽妙ですばらしく、かつてのゴールデンコンビのように勘九郎さんと巳之助さんの踊りも沢山見たい物種と思いました。それして玉三郎さま、あの美しさ、というよりも、この静御前のかわいらしさ、なんならちょっとコケティッシュな感すらあるあの佇まい。マジでヤバい(ハイ語彙どこいった)。勘九郎さんと「吉野山」をやってくださったこと、本当に本当にありがとうございます…と拝みたい気持ちになったことであったよ…。忠信の引っ込みのとき、花道の七三でふと視線をあげるのだけれど、それがなんともいえず思いのある表情で、親を慕う狐忠信という役と勘三郎さんを慕う勘九郎さんが重なって見えるような瞬間だった。忘れられません。

助六曲輪初花桜」。仁左衛門さまが助六を―!ぶおーぶおー!(ほら貝)と界隈の話題を文字通り席巻いたしましたね。いやあほんとうにありがたい…雑誌のインタビューで七之助さんが「この機会がなかったら揚巻をやれないままだったかもしれない」みたいなこと仰ってて、そうかあ…って思ったし、ほんと仁左衛門さまの勘三郎さんへの想いと、ご兄弟を深く気遣ってくださるその心に完敗、いや乾杯だよ。完敗で乾杯だよ。私は今まで成田屋さんの助六しか拝見したことがなかったので、そうか外題が変わるんだ!ってのも今回初めて知りました。いろいろお家によって違いがあるのね。でもって、以前拝見したときも文字通りてんこ盛りでサービス精神に富んだ芝居だなあと思ったけど、今回さらにその思いを強くしたというか。助六の登場まででも十分な絵面の華やかさなうえに揚巻のこれでもか!!な太夫ぶり、そして待ってました助六の登場だもの。男前なひとが自分は男前だということを分かって信じたうえで男前な役をやる、そこにうまれる衒いのなさからくる輝き、オーラ、いやはやこれ寿命が延びるやつでは…と観ながら思いました。

歌六さんの意休も又五郎さんのくわんぺらも巳之助さんの朝顔仙平も、みんなみんな出てくるひとがきっちり仕事をしてくれて場面を隙なく盛り上げてくれる。七之助さんの揚巻勿論美しくてさすが!ってなったし、あの出の場面もさることながら後半の4人になった場面とかに一段と七之助さんのよさが出ているような気がしたなー。勘九郎さんの白酒売、いやもう仁左衛門さまとのやりとりがいちいちかわいらしく、ああ…これ永遠に観ていられるやつやん…ってなりましたね。玉三郎さまの満江が出てからがほんと最高で、あの仁左衛門さまが「ヤッベ」(とは言ってないけど背中が言ってる)ってなるの最高だし、そのあとの空気読めないお兄ちゃまも最高だった。いやほんと、人気のある演目なのわかりますね。はじめて歌舞伎見る!ってひとでも、この絵面の楽しさだけでもじゅうぶん楽しめるのではないだろうか。通人をおやりになったのは彌十郎さんで、軽妙でありながらも勘三郎さんへの想いがいっぱいこもった通人で、彌十郎さんにやってもらえてよかったなあと思いました。彌十郎さんだけでなく、亀蔵さん児太郎さん(白玉めっちゃよかったよね!!児太郎さんの揚巻も早く見てみたい)もみんなみんなあのせっかちで明るくて太陽のようなひとを思って芝居をしてくださってるんだなってことが伝わってきて、本当にすばらしい追善でした。勘九郎さんが助六をやることは…あるのかな?ご本人は以前自分としては乗り気ではないというようなことを仰っていたし、私も是が非でも見たいと思っていたわけではないのだけど、でも自分がかっこいいと信じてかっこいい役をやるときの勘九郎さんはアレがアレするレベルでかっこいいので、気持ちが前向きになられることがあったらいいな!とほんのり祈っております。

イヤホンガイドの幕間の勘三郎さんのインタビュー、勘三郎さんの声に懐かしくなる前にインタビュアーが塚田さんでまずそっちに懐かしの花が咲いたりしてたんですけど、いろんなことを夢見て口にして実現してきた勘三郎さん、その勘三郎さんがきっとたくさんの夢を思い描いていたであろう、新しい歌舞伎座のある未来に自分は今いるんだなーということをしみじみ考えたりしました。勘三郎さん、相変わらず歌舞伎はたのしくて、こっちの財布をカッスカスにしてきやがりますよ!こんな楽しいもの教えちゃって、どーすんですか、責任とって!なーんてな!

*1:「舞台って見てる力と聴いてる力だと聴いてる力のほうが強いんですよ、見てる力と聴いてる力、両方マックスだと人間って多分疲れちゃう。だから舞台だと見てる力を休めてるなって思う時があるんですよ」