「LIFE LIFE LIFE」

段田安則大竹しのぶ稲垣吾郎ともさかりえの4人が揃ってケラさんの演出で「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」の再演…の予定だったのですが、諸々の事情により演目変更。キャストはそのままなので4人芝居で、しかも4人の見せ場が拮抗してて…となるとなかなか無理ゲーなような気がしてきますが、白羽の矢が立ったのがヤスミナ・レザの本作。

舞台は同じ場面を3度なぞる。若い夫婦には子どもがひとりいる。夫は長年かけた研究論文と同じ内容が誰かに先を越されてしまったのではないかと気が気ではない。夫よりも高い地位にあり、夫の論文を推挙できる立場にいる男とその妻が、彼らの家にディナーに招かれるが、来るのは明日の筈だった…。

同じ模様を描いていたつもりでもなぞるたびにずれてゆくように、少しずつ違う側面を見せていく4人の関係性が面白かったですし、同じようでありながらも同じようでない、という4人の登場人物の「ズラし」がまさに芝居巧者の味わいで、堪能させていただきました。個人的に面白いなと思ったのは、それぞれの関係性がいちばん崩壊しかかっているのが3幕目と思われるのに、表面上はもっとも美しく終わる…というのがすごいな、と。

いつ、どんな場面でも自分がバトンを持つ、となったらあっという間に客の視線を惹きつける大竹しのぶさんもすごいが、3パターンとも大きく人物像を変えるようなそぶりもなく、でも確実に描いている線はさっきの場面と違っている…という段田さんの匠の技、さすがすぎます。吾郎ちゃんは逆にはっきりと違う線を描く、という意思が見える役作りなんだけど、同じトーンでもメンタル豆腐とメンタル鋼とそれぞれのタイプに説得力があるのがよかった。ともさかさんはケラさん演出の舞台が一番輝いてるんじゃないかなーと観る度思う。

ヴァージニア・ウルフの時と同様、センターステージで、しかも舞台が回転する仕様。見えない、ことをストレスじゃなく刺激として見せられるのはさすがケラさんという感じ。そしてこれ、ケラさんが翻訳作品の演出をするたびに言ってる気がしますが、ケラさんが演出するとあの翻訳ものを見ているときの独特の「翻訳ものの台詞を喋ってますよ、今」という違和感がまったくない。フィンガーチョコをめぐるやりとりの絶妙な面白さ、登場人物の会話の中にある見えないサブテキストの味わい、いやーほんと、演出家で左右されちゃうところだよねえ。「ヴァージニア・ウルフ」を再見できなかったのは残念ですが、短い上演時間で濃密な会話劇、たいへんおいしくいただきました。