「ラスト・クリスマス」

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クリスマス・ロマンティック・コメディ。どこをとっても私の嗜好と縁がなさそう。最初はそう思ってました。エミリア・クラークヘンリー・ゴールディングも好きだけど、あのキラキラ感あふれるフライヤーに「クリスマスに奇跡が起こる」のキャッチコピー、音楽はあのクリスマスソングのド定番のワム!、見に行く選択肢に入ってなかったですよ直前まで。でも私のツイッターのTLでまったく別方向から激賛が入ったんですよ。え?そう?しかも「前情報何にも入れないで見て!」とかいうじゃん。気になるじゃん。ということで遠征の隙間に足を運んできたってわけです(前置き長い)。いい?じゃ、私も言うけど、

何にも前情報入れないで見て!

いやー、よかった、よかったです。このクリスマス迫る今の時期だからこそ見てほしい。クリスマスがやってくる前に見てほしい。脚本はエマ・トンプソン、監督はポール・フェイグ

クリスマスショップで働くケイトは居候していた友人宅を追い出され行き場に困っている。実家はあるが、帰りたくない。ケイトは歌手を目指していて、オーディションを受けたりもするが、うまくいったためしがない。ケイトの一家はユーゴスラヴィア紛争のため難民としてロンドンにやってきたのだが、弁護士だった父はタクシー運転手となり、母は誰ともかかわろうとせず、子どもたちへの干渉を深める一方だ。ケイトの姉は女性と交際しているが、そのことを両親にカムアウトしていない。真綿でゆっくりと首を絞められているような日々の中、不思議な青年がケイトの前に現れる。

あんなに推されるぐらいだから、何かがあるのだろう、それは「あっと驚く展開」のようなものなのだろう、というぐらいの読みは当然していて、その「あっと驚く展開」はもちろんあったんだけど、でもそれがこの物語のキモではないのだった。それがすごい。そこから何を受け取ったのか?ということが淡々と積み重ねられて描かれている。私の敬愛する俳優がかつて言った、「他人を変えられると思うなんて傲慢なことだよ。自分が変えることが出来るのは自分だけだ」って言葉を思い出したりした。ケイトが目の前にカップを置いて、歌って寄付を募る場面、最初にコインを入れた紳士が帽子の縁をきゅっとさげる仕草をする、ああいう一瞬がどうしようもなくぐっとくる。

ねえ、生きてるってすばらしいことよ。生きてるからこそ助け合える。こんなド直球歳末助け合いみたいなセリフで、まさか自分がどうしようもなく泣いてしまうとは。

家族との「ままならなさ」の描き方もよかったな、居候しているケイトのはた迷惑ぶりったらない(家を追い出されたと聞いて最初はえっひどい、と思う観客も、5分後にはそりゃ追い出されるわ…と思うであろう)、でもあの母親と一緒に暮らせない、と思っちゃうのもわかるし、姉に対するケイトの仕打ちは弁護の余地なしなんだけど、でも一つずつ関係を構築していこうとする、それがまた一気にうまくいくんじゃなくて(あの外国人が多すぎる、の母の台詞に対するケイトの表情、最高よね)3歩進んで2歩下がるみたいな長期戦が予想されるのも、よかった。そうやって自分が変われば、世界も少しづつ変わるっていう。

ケイトの勤めるクリスマスショップのオーナーがまた素敵で(ミシェル・ヨー!)むちゃくちゃ毒舌なようだけど最後の一線のところで他人を見捨てない、っていう人物像なんだよね。あそこでケイトをクビにしないの、本当すごい。折々に出てくる女性警官のコンビも効いていて、いや思えばさ、こういう「別に性差なくどっちの立場でもいい」っていうキャラってもれなく男性がやってきたよな…ってことも思ったりしましたね(この手の男性警官コンビってむちゃくちゃ頻度高いもん)。

コメディとしてもフックが効いていて楽しく、あとなによりワム!の音楽に対するポール・フェイグ監督の愛を、ジョージ・マイケルに対する敬意をむちゃくちゃ感じるフィルムでした。この季節、耳にしないことはないあのラスト・クリスマス
Last Christmas,I gave you my heart
But the very next day you gave it away
この歌詞を耳にするとき、今まで思いもよらなかったことを思ってしまうかも、この映画を見た後では。

エミリア・クラークの魅力爆発、ヘンリー・ゴールディングの魅力大爆発、脚本を手掛けたエマ・トンプソンもさすがのインパクトある母親ぶり、すみからすみまで「いいいキャラ」尽くしで本当に愛しさあふれる映画でした。どんなマイノリティも置いていかないぞ、という心意気のクリスマス・ムービー。ぜひジングルベルの鳴る前に映画館で!